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Highlighting JAPAN

野口博士の遺志を継ぐ

ガーナ共和国にある野口記念医学研究所では、高い技術・知識レベルを要する感染症研究・検査が行われており国際的にも高く評価され、西アフリカでの感染症対策に大きく貢献している。

日本政府は2006年、アフリカでの感染症等の疾病対策において、医学研究と医療活動の分野で顕著な功績を挙げた個人・団体を顕彰する「野口英世アフリカ賞」を創設した。同賞は、2008年と2013年のアフリカ開発会議(TICAD)で、それぞれ2名に授与され、今年のTICAD7でも2名に授与されることが決まっている。

この賞に名前を冠せられた野口英世博士は、現在の千円札にも肖像が描かれている日本人にはなじみ深い細菌学者である。1876年、福島県の貧しい農家に生まれた野口博士は猛勉強の末に医師となり、1900年に渡米した。ロックフェラー研究所で梅毒、黄熱病などの研究で数々の業績を上げ、ノーベル賞授賞候補にもなるが、研究のために赴いた西アフリカの英領ゴールド・コースト(現在のガーナ)のアクラで、1928年に黄熱病で死亡した。

そのアクラには、「野口記念医学研究所」(以下、野口研)がある。野口研は1979年に日本の無償資金協力で、ガーナ大学の生物医学研究機関として設立された。ウィルス学、細菌学、寄生虫学など9つの研究部門で構成されており、現在、約50名の研究員を含む約400名の職員が働いている。

「研究所の職員は、野口博士を深く尊敬し、研究所で働くことに強い自負を持っています」と国際協力機構(JICA)人間開発部の八木文さんは話す。

JICAは野口研の創立以来、ガーナ政府と協力し、実験室の建設、研究機材の供与、日本人専門家の派遣、ガーナ人研究員の日本での研修などの支援を行ってきた。現在では野口研はガーナ国内のみならず、西アフリカにおける感染症対策の拠点の一つとして位置付けられるようになっている。2014年に西アフリカでエボラ出血熱が流行した際は、国内外の約200例の感染が疑われる検体の検査を実施、さらに、研究員が世界保健機関(WHO)のテクニカルオフィサーとしてギニアに派遣され、同国の流行封じ込めに活躍した。

研究業績も国際的に高い評価を受けており、日本のみならず、デンマーク国際開発庁、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、アメリカ国立衛生研究所など数多くの組織との共同研究を実施している。

現在、JICAならびにAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の支援を受け、野口研が東京大学医科学研究所など日本の研究機関と共同で実施しているのが、未知の感染症の封じ込めや、既知の感染症(コレラ、髄膜炎など)の流行予防を目的とした疾病サーベイランス体制を強化するためのプロジェクトである。プロジェクトでは、野口研がプロジェクト対象エリアから集められた下痢症発症患者の原因病原菌を判別するとともに、腸内に存在する細菌の集まり「腸内細菌叢(そう)」(腸内フローラ) を解析する。腸内細菌叢は感染症と深い関係があると言われており、世界中で研究が進められている。この基礎研究と共に、野口研は、病院での治療や疾病対策を管轄・実施するガーナ保健省の下に位置付けられる政府機関であるGHS(ガーナ保健サービス)と連携し、感染症の発生状況を把握し情報を共有するサーベイランス体制の強化を進める。プロジェクトはガーナが将来的に、感染症流行の予兆をいち早く察知し、国民に警戒を呼びかける体制が確立するように、サーベイランスシステムのモデル構築を目指している。

2019年3月には、JICAの支援により、野口研に新たな研究施設「先端感染症研究センター」が開所した。設立から40年を経た野口研では、研究スペースの不足、施設の老朽化が進んでいたが、同センターには、世界にも通じるレベルの実験施設・機器が整備され、これまで以上に安全な環境の中で、最先端の研究機器を使った先進的な研究を行うことが可能となる。特に期待されているのが、西アフリカでの感染症研究・対策及び人材育成の拠点としての役割である。野口研では2019年1月から3月にかけて、西アフリカの感染症対策のために、シエラレオネ、リベリアなど4カ国の検査技師を対象にした研修が初めて実施された。今後、新しいセンターにおいても、2021年まで、同4か国で感染症の診断に従事する検査技師に対する研修が実施される予定である。

「感染症サーベイランス体制など野口研で得られる知見は、日本国内の感染症対策にも大きく活かせます。40年を経て、野口研は日本の対等な研究パートナーになりました」と八木さんは話す。

感染症の究明に生涯を捧げた野口博士の遺志は、現在、そして未来へと引き継がれていく。