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Highlighting JAPAN

エジプトに広がる「特活」

エジプトでは近年、「特別活動」(特活)など日本式教育を導入する学校が増えている。

日本の小学校・中学校・高校では「特別活動」(特活)と呼ばれる教育活動が行われている。教育の公的ガイドラインである「学習指導要領」によれば、特活の目的は、「望ましい集団活動を通して、心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図る」ことである。具体的には、学校行事やクラスの課題など様々なテーマを話し合う「学級会」、授業の前後に号令をかけたり、授業後に黒板の字を消したりなどの仕事を行う「日直」、教室、廊下、校庭など学校の「掃除」など、児童・生徒による活動のことで、日本の教育の特徴の一つとなっている。

エジプトでは近年、特活を始めとする日本式教育を導入する学校が増加している。その背景の一つは、いわゆる「詰め込み教育」にある。エジプトの学校では厳格な進級・卒業試験が行われているため、暗記・試験を重視する授業が主流となっている。そのため、学校で、協調性、規律、道徳心などの社会的能力を育てる機会が十分ではないという心配が広がっていた。

こうした中、エルシーシ・エジプト大統領が協調性や規律を育む日本の教育に注目したことがきっかけとなり、エジプトから日本に対して、日本式教育の導入に向けての協力が要請された。そして、2016年、日本・エジプト両政府は、エジプトの学校で、日本式教育の経験やノウハウの導入を両国が共同して進める「エジプト・日本教育パートナーシップ」を結んだ。2017年からは、パートナーシップを踏まえ、カイロ及びその近郊の12の公立小学校・中学校をパイロット校として、日本式教育の導入のための国際協力機構(JICA)によるプロジェクトが始まり、学校運営や特活などの専門家が日本から派遣されている。

「パイロット校では、学級会や日直などの特活に加え、エジプトではまれな校長や教員が集まっての会議や、教員間の相互授業参観など学校運営に関わる支援も行っています。プロジェクトの開始以来、『tokkatsu』という言葉も、エジプトの教育関係者の間で、一般的に使われるようになっています」とJICA人間開発部の梯太郎さんは話す。

2018年には、パイロット校で得られた経験を活用しに、エジプト政府が35校の「エジプト日本学校」(EJS)を新たに開校し、初年度、幼稚園1〜2年生と小学校1年生が入学した。EJSでは、学級会、日直、掃除、始業前の自習時間などの特活が実施されている。さらに、従来の公立学校よりも教室面積が広く、児童一人に1組の机と椅子が用意されている。また、公立校では一般的ではない、実技科目用の実習室、職員室などの施設も整備されている。EJSは開校前から親の注目を集め、平均で定員の約3倍の応募があった。

JICAは日本式教育を教える人材を育成するために、現在まで、パイロット校やEJSの教員、教員を指導するトレーナー計約80名に対して、日本で約1ヶ月の研修を実施している。エジプト政府は、今年9月に数校のEJSを新たに開校させる予定であるが、今後数年の間に、EJSを含め、日本式教育を全国に普及するため、モデル学校の設立200校を目指している。

パイロット校やEJSへの評価は極めて高い。親や校長からは、子どもが家で掃除などの手伝いを積極的にするようになった、以前と比べ学校で児童が落ち着いて行動するようになった、あるいは、他の児童を尊重するようになったなどの変化が挙げられている。また、学級会での児童の様子を見て、児童が自分自身で考え行動する力に気付き、児童の意見をより聞くようなったと話す教員もいる。

2018年からは、全国約18,000校で実施されている小学校1年生の新しいカリキュラムに、学級会や日直などの活動が「ミニ特活」という名称で組み込まれた。

「エジプトは現在、教育の質を向上させるための様々な改革に取り組んでいます。日本式教育の導入によって、改革の促進に貢献したいです」と梯さんは話す。