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Highlighting JAPAN

タンザニアの未来を拓く「光」

タンザニア出身で、長野県に住む小林フィデアさんは、家族や会社と協力し、タンザニアの女性と孤児を支援している。

長野県北部の飯綱町に、ワイン、ジャムなどの商品を販売する株式会社サンクゼールの本社がある。この地方の古くからの名産品であるリンゴ畑などの田園風景が広がり、見晴らしの小高い丘にある本社には、同社のワイナリーが建っており、ショップでは自社製造のワインやジャムなどが販売されている。落ち着いたデザインの商品が多い中、ひと際カラフルなラベルのジャムが数種類並ぶコーナーがある。「フィデアジャム」と名付けられたこれらのジャムは、タンザニアの伝統布「カンガ」柄のラベルが美しい上に、ブルーベリー、いちご、オレンジなどの果物本来の風味を楽しめると人気の商品になっている。このジャムのレシピは、ワイナリー併設のレストランで働く、タンザニア南部ソンゲア町出身の小林フィデアさんのアイデアがヒントになっていて、ジャムの売り上げの一部はタンザニアの孤児の支援に充てられている。

フィデアさんは、タンザニアに青年海外協力隊として赴任していた日本人の小林一成さんと結婚。夫の実家はリンゴ農家であったので、1996年に来日した当初、フィデアさんは農作業を手伝っていたが、知人の紹介で1998年からパートタイマーとして同社の工場に勤めるようになった。

フィデアさんの日本での生活は不自由のないものであった。しかしその一方で、厳しい環境に置かれたタンザニアの女性や子どもへの思いが次第に募るようになっていった。

「私の母は長年、夫を亡くした女性たちを支援していたので、私はタンザニアでは彼女らの子どもたちに囲まれて暮らしていました。母は家の玄関先に置き去りにされた赤ちゃんたちを保護して、育ててもいました。日本に来る時に、その子たちが『私たちのことを忘れないで』と泣いていたのが、日々思い起こされました」

タンザニアでは両親を病気で亡くした孤児も多く、また、貧困によって子育てを放棄された子どもの問題も深刻であった。

1999年、フォデアさんは母、姉と話し合い、貧困に苦しむ女性の自立支援と孤児の養育に取り組むNG0「ソンゲア女性と子供の支援団体(SWACCO)」を、ソンゲアの実家を活動拠点として立ち上げることに決め、自分の収入の一部や、講演や募金活動で得た資金をSWACCOに寄付し、活動を日本から支えることにした。

SWACCOは孤児への支援を行いながら、2005年に12haの敷地に孤児院を建設する計画もスタートさせた。「ある時、そのことを知ったサンクゼール会長(当時の社長)に『それは一人でやることでないよ』と言われ、会社として活動をサポートしていただけることになりました。今も会長には心から感謝しています」とフィデアさんは話す。

その後、フィデアさんはレストランのホール係として正社員となり、仲間の社員のサポートを受けながら講演などの活動を続けた。全国各地にあるサンクゼールの直営店には募金箱が置かれるようにもなった。フィデアさんは2010年、SWACCOのタンザニア孤児支援活動を日本から更に後押しするために、自宅を活動拠点としてNP0法人「ムワンガザ・ファンデーション」を設立した。「ムワンガザ」はスワヒリ語で「光」を意味し、「子どもたちが、希望の光を見失うことなく生きていくことができますように」という願いが込められている。SWACCOが購入した士地には、これまでに井戸2基と居住棟2棟がしゅん工し、現在では約80名の孤児が暮らしている。この敷地内に、診療所や学校も整備するのが、フィデアさんと同僚の社員たちの夢となっている。

会社にとっても、フィデアさんは今や欠かせない社員である。フィデアさんがホールに立てば、レストランは明るい笑いに包まれる。例え悲しいことがあっても「前を向いて!」と勇気づけてくれるフィデアさんに会うために、遠方から訪れる常連客も多いと言う。

フィデアさんの笑顔が、日本からタンザニアの未来を切り拓く「光」そのものになっている。