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Highlighting JAPAN

地元の味をゆったり楽しむ旅

静岡県を走る天竜浜名湖鉄道に乗ると、のどかな景色の中で、お茶やうなぎなど、豊かな自然に育まれた様々な特産物を楽しむことができる。

静岡県西部を走る天竜浜名湖鉄道、通称、天浜線は、東海道新幹線が停車する掛川市の掛川駅と湖西市の新所原駅との間、67.7kmを約2時間で結ぶ鉄道である。1935年の一部開業の後、1940年に全線が開通し、現在は静岡県など沿線自治体を中心に設立された天竜浜名湖鉄道株式会社が運営している。天浜線の特徴の一つとして、全線にわたって、開業当時をしのばせる駅舎・橋梁など36件の国の登録有形文化財が存在し、ノスタルジーな気分を味わいながら旅をすることができる。

鉄道の名称は、隣県の長野県を源流として、静岡県内を南北に流れ太平洋に注ぐ天竜川、そして、日本有数の汽水湖として知られる浜名湖に由来する。沿線は豊かな自然に恵まれ、梅、紫陽花、桔梗などの花が美しく咲き誇る名所も多い。

「天浜線は、自然の風景はもちろんのこと、県特産の多様な農産物や魚介類を堪能する、ゆったりとした旅ができます」と天竜浜名湖鉄道管理部長の大村由司さんは言う。

静岡県の特産の一つがお茶である。江戸時代から茶の栽培が広がり始めた静岡県では、明治時代に茶畑のための大規模な開墾が行われ、日本有数の生産地となった。2017年時点で栽培面積、生産量は全国1位となっている。掛川駅から田園風景の中を30分ほど走ると、車窓から茶畑が見え始め、産地の一つ森町にある遠江一宮駅に着く。小高い山に囲まれた森町には、製茶工場、直売店、和菓子店などが多くある。太田茶店は、厳選した茶畑で摘み取られた葉を使ったお茶を製造・販売しており、試飲もできる。併設されたカフェでは、和菓子や茶葉を使ったケーキなどのスイーツも楽しめる。

「お茶の味は、茶畑によって異なります。また、採れた茶葉をしばらく寝かせることでも変わります。そうした味の違いを踏まえ、一年を通して、その季節で最もおいしいお茶をご提供しています」と同店を営む太田英子さんは話す。

この他、浜名湖に面する三ケ日町は、みかんの大産地として知られる。10月から12月にかけて、車窓からはオレンジの実を付けたみかん畑が臨め、観光農園ではみかん狩りも楽しめる。

39駅ある天浜線は、駅舎内においしい飲食店が多いことが特徴となっている。1938年に建てられ、国の登録有形文化財にも登録されている西気賀駅の駅舎の「グリル八雲」では、地元産の野菜を使ったフランス料理が食べられる。同じく、駅舎が登録有形文化財の三ケ日駅の「グラニーズバーガー&カフェ」では、地元産の牛肉を使ったハンバーガーが人気である。そして、終点の新所原駅には、浜名湖うなぎ専門店「やまよし」がある。

日本のうなぎの養殖は19世紀末、浜名湖畔に作られた養殖池で始まった。浜名湖はうなぎの稚魚が多く生息し湖畔には養殖に必要な地下水も豊富だったことから、浜名湖畔は養殖うなぎの大産地となった。やまよし店主の山田忠義さんは、祖父から続く養鰻業者の三代目で、小さい頃から養殖の手伝いを行ってきた。1990年から駅での販売を開始し、今では全国から客が訪れる。2000年に養鰻業からは身を引いたが、店では今も全て地元産のうなぎを使っている。店には10人程が座れるスペースもあるが、テイクアウトができるのでお弁当として車内で食べる人も多い。

「駅で店を開いていると、鉄道を通じて全国の人とつながっているという気持ちになります。遠くから来ていただいたお客さんのためにも、地元産の一番うまいうなぎを食べさせたいといつも思っています」と山田さんは話す。 

天浜線で旅すれば、自然の景色だけではなく、その恵みに満足することができるだろう。