Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan August 2019 > 山の恵み

Highlighting JAPAN

山歩きを楽しむ

山に関するエッセイの出版や、山ウェアのプロデュースなど、幅広く活躍する四角友里さんに、山歩きの楽しみや日本の山の美しさについて聞いた。

「写真を撮るのが好き。植物観察が好き。山小屋でコーヒーを飲むのが好き。そんなふうに、山歩きの目的や自然の楽しみ方は、人それぞれであって良いと思うんです」と、 “アウトドアスタイル・クリエイター”の四角友里さんは語る。四角さんは、女性用山ウェアや道具をプロデュースしながら、それまで「登山」というと登頂を目指すのが主だった日本で、自由なトレッキングの魅力を広める活動をしている。

四角さんが山の素晴らしさに目覚めたのは、2003年に自然豊かな長野県の上高地を訪れた時のことであった。雄大な穂高連峰と、エメラルドグリーンの梓川のあまりの美しさに感動した。歩いたのは1時間ほどの平坦なトレッキングコースだったが、四角さんは更にその奥に行ってみたいと思うようになった。体力に自信がなく高い所が苦手だった四角さんだが、少しずつ山歩きの経験を重ね、日本だけではなく海外の様々な山を登るまでになった。

そうした中、2004年、四角さんは、ニュージーランドでトレッキングをした時に転機を迎える。山小屋で着替えをどうするか迷っていた四角さんの傍らで、アウトドアスカートを履いたまま手早く着替えを済ませるヨーロッパの女性に出会った。それまで不便を感じていたことが、スカートなら解消するかもしれないと思った四角さんは、帰国すると海外メーカーからアウトドアスカートを取り寄せて研究をした。すると、足さばきの良いスカートは機能的であることもわかった。そこで企画をアウトドアメーカーに持ち込んで2009年に商品化したのが“山スカート”である。日本ではそれまでおしゃれな女性の登山用のウェアはあまりなく、登山用のスカートも作られていなかった。四角さんの“山スカート”は、アウトドアでもおしゃれができるとあって、たちまち若い女性の間で人気となった。登山が若い女性の間でブームとなり、山スカートを履いてさっ爽と山を歩く四角さんの写真がアウトドア雑誌の表紙を飾った。

以来、四角さんは様々なウェアなどのアウトドア用品を世に送り出している。四角さんがプロデュースするウェアはとてもカラフルである。そこには、着物着付け師の肩書も持つ四角さんならではの感性がある。「着物は、移りゆく季節に合わせた決まりがあり、草花や景色など自然の美しさを取り入れ、色合わせや柄などで表現します。日本の山は植生が多様で、新緑も紅葉も多彩な色になります。山歩きをしていると、日本人は自然を愛でる感性を大切にしてきたことがよくわかります」と、四角さんは語る。

四角さんがそのことを最も実感した山が京都の大文字山であると言う。夏に祖先の霊を送る送り火を焚くことで有名な大文字山は、標高465メートルほどの低山だが、登ると街を一望でき、山々に守られるように京都の街が形成されているのが見て取れる。下山すれば、大文字山を借景に造られた庭や、四季の花をかたどった和菓子など、自然と共にある京都の文化に改めて触れることができる。

四角さんはこれまで数多くの登山を経験しているが、難しい山に無理に挑戦することはしない。「登山者の憧れの槍ヶ岳(標高3,180メートル)は、登頂ではなく、見に行きました。もちろん山頂からしか見られない景色もありますが、夕方に向かいの山の稜線に現れる槍ヶ岳の影や、鏡のような池に映る姿、月に照らされる頂など、たくさんの美しい槍ヶ岳を見せてもらいました」と四角さんは話す。

若い女性たちの間で起こった登山ブームから10年あまりが経ち、日本の登山文化も深く根ざすようになった。四角さんのトークイベントには、年配の女性、体力に自信がなく登山を諦めていた男性たちの参加も増えている。四角さんは、のんびりと自然と触れ合いながら、等身大の山歩きの楽しさを伝えている。