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Highlighting JAPAN

ジビエで地域振興

和歌山県古座川町は、狩猟で得た野生鳥獣の肉である「ジビエ」を国内トップレベルの処理加工技術によって、新しい町のブランド「古座川ジビエ」を創り上げた。

紀伊半島の南部に広がる和歌山県古座川町は、294ヘクタールという広大な面積を持ちながら人口は2500人ほど、町域の約96パーセントは森林で覆い尽くされている。この緑豊かな土地で近年評判となっているのが、ジビエである。農作物被害をもたらしてしまう動物たちを、地域振興の資源に変えた古座川ジビエの魅力について、町役場でプロモーションを担当する細井孝哲さんに話を聞いた。

「古座川町のお年寄りの中には“昔は肉と言えばイノシシだったよ”と言う人がいるほど、ジビエは一般的な食べ物でした。ところが肉屋さんの肉が当たり前になると、素人が処理する野生鳥獣の肉は生臭くて、おいしくないと敬遠されるようになっていったのです。一方、近年は野生動物による農作物の被害が甚大で、町内では年間に1000頭前後のシカ、100頭前後のイノシシを駆除しています。ところが、捕獲した野生動物のうち肉として消費するのはごくわずかで、大半は野山で埋設処分していました。これに対して地元で古くから猟師をやっている人からは“無駄な殺生はしたくない”“自分が食べる分しか獲りたくない”といった声も上がるようになっていたのです」と細井さんは言う。

 このような経緯から古座川町が始めたのが、野生動物の肉を積極活用するジビエへの取組だった。2015年には新たな鳥獣食肉処理加工施設「古座川ジビエ山の光工房」を建設し、徹底した衛生管理の下で上質なジビエ肉の提供を始めている。

「山の光工房には他の食肉処理加工施設にはない、幾つかの特長があります。その一つは熟練した料理人が肉をさばいていること。また、ここで受け入れている野生動物は捕獲してから2時間以内のものに限られています。しかも、捕獲時の最初の処置の善し悪しがジビエ肉のおいしさを大きく左右するため、町役場による講習会をしっかりと受けている猟師さんの仕留めた動物以外は仕入れないのですよ」と細井さんは話す。

 こうして生まれたのが、「古座川清流鹿・金もみじ」と名付けられたオリジナルブランドのジビエ肉である。豊かな自然の中で成長し、丁寧に処理されたジビエ肉は、ミシュランの星を持つレストランのシェフなどから、その味の素晴らしさを高く評価されている。このほか、和歌山県と大阪府にチェーン店を展開する人気ベーカリー、パン工房カワとのコラボレーションで生まれた「里山のジビエバーガー」は、初めて参加した2016年の全国ご当地バーガーグランプリで見事グランプリを受賞している。このような町ぐるみの取組が高く評価され、2018年3月には農林水産省の「ジビエ利用モデル地区」(全国17地区)の一つにも選定されている。

「ジビエバーガーのグランプリ受賞は、一般消費者へのアピールになったばかりでなく、地元・古座川町の人々のジビエに対する意識を大きく変えるきっかけにもなったと思います。今では古座川ジビエは町内の小・中学校の給食にも提供され、シカ肉カレーなどが大人気のメニューになっています。また、最近はレストラン向けだけでなく、一般家庭向けに簡単な調理でおいしいジビエ料理が味わえる「こころうたれる」というシリーズ商品を充実させているほか、高タンパク・低脂質で脂肪燃焼効果が大きいシカ肉の特長に注目して、アスリート向けの新商品の開発などにも取り組んでいます」と細井さんは語った。

山の恵みであるジビエが、人々の生活や地域を豊かにしている。