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Highlighting JAPAN

清流に寄り添う鉄道

岐阜県を走る長良川鉄道では、日本有数の美しい河川である長良川の眺めを楽しむことができる。ゆったりと、落ち着いた雰囲気の観光列車に乗って、長い歴史、多くの民芸品、伝統を持つ地域を訪れることもできる。

日本三大清流の一つ長良川は、本州のほぼ中央に位置する岐阜県の北部山中を源流として、同県を縦断し、隣の三重県を流れ太平洋へと流れ込む。この長良川に沿って走る長良川鉄道は、岐阜県美濃加茂市の美濃太田駅と、郡上市の北濃駅とを結ぶ72.1キロメートルの路線である。

「長良川鉄道の魅力は、なんと言っても、鉄道に寄り添うように流れる長良川です。鉄道はディーゼル車両なので、架線や架線柱もありません。車窓からの眺めも遮られませんし、1、2両編成の列車が走る姿は、周囲の景色ととても良くなじんでいます」と同鉄道のチーフ・アテンダント、船戸由香さんは話す。

この長良川鉄道の旅をゆっくりと堪能できるのが観光列車「ながら」である。「ながら」のデザインは、九州新幹線800系を始め数多くの鉄道デザインを手掛けてきた水戸岡鋭治さんによるものである。車体の色は、鮮やかなロイヤルレッドを基調としており、和風でシックな雰囲気の車内には、県産の素材をふんだんに用いた装飾が施されている。テーブルや座席などには主に県東部で産出される「東濃ひのき」が使われている。景色を絵画のように見せるために、窓にもひのきの枠がはめられ、車両の出入口近くには郡上市で染められる「郡上本染」ののれんが掛けられている。

「ながら」は主に金曜日、週末、祝日、夏休みに1日1往復、運行されている。昼食が付いたプランも用意されており、飛騨牛、奥美濃古地鶏、鮎など地元の食材を使った食事を楽しむことができる。

「長良川でラフティングやカヤックを楽しむ人々がしばしば、列車に手やオールを振ってくれます。そうした人との触れ合いも長良川鉄道ならではの楽しみと言えます」と船戸さんは話す。

長良川鉄道の沿線には観光スポットも多い。関駅のある関市は800年以上の歴史を持つ刃物の産地として知られる。関の刃物は、日本刀から歴史が始まり、その後、包丁、ナイフ、ハサミなどの製品へと幅を広げていった。刃物会館前駅近くの岐阜県刃物会館では、関市で生産された刃物製品が展示されているほか、包丁、ナイフ、キッチン用品など約2,500点が販売されている。また、関鍛冶伝承館では、日本刀やカスタムナイフが展示されており、伝統的な日本刀鍛錬の実演も行われる。

美濃市駅のある美濃市は、1300年の歴史を誇る美濃和紙の産地として有名である。その美濃市には、江戸時代から明治時代に建てられた町家が並び、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された「うだつの上がる町並み」と呼ばれる地区がある。「うだつ」とは、屋根の両端にある防火壁のことで、もともと類焼を防ぐために設けられていたが、次第に富の象徴として、凝った装飾が施されるようになった。

うだつの上がる町並みでは、1994年から毎年10月中旬に「美濃和紙あかりアート展」が開催されている(今年は10月12日、13日)。アート展では、全国から応募された美濃和紙を使ったあかりのオブジェ約500点以上が並び、町は美しく幻想的な雰囲気に包まれる。「美濃和紙あかりアート館」では、これまで優秀作品に選ばれた作品の中から約80点を展示している。

「和紙を重ねたり、曲げたりなど様々な技巧を凝らした作品は、和紙の持つ可能性の大きさに気付かせてくれます」と同館館長の古川英孝さんは話す。

このほか、郡上八幡駅のある郡上市では、毎年7月から9月まで、400年以上にわたって続けられている郡上おどりが開催される。同じ郡上市にあるみなみ子宝温泉駅は、駅のプラットホームが温泉施設の入口になっており、列車を降りてすぐ温泉に浸かることができる。

長良川鉄道に乗れば、長良川の澄んだ流れを眺められるだけでなく、沿線の豊かな自然、歴史、文化に触れる旅ができる。