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Highlighting JAPAN

全ての人のための「超人スポーツ」

「超人スポーツ」は、テクノロジーを使うことで、体力の差や障害の有無を超えて、誰もが楽しめるスポーツとして、世界に広がりつつある。

ロボット工学やコンピュータ技術など、最新のテクノロジーを取り入れて、人の身体能力を超える力を身に付け、誰もが楽しめる新しいスポーツの創造を目指す「超人スポーツ協会」は、2020年のオリンピック・イヤーに東京でエキシビションの開催を計画している。協会の共同代表を務める稲見昌彦さんは「オリンピック・パラリンピックの競技に出場できるのは、選び抜かれたほんの一握りの選手に限られます。もちろんそれは素晴らしいことですが、一方で、障害の有無や体格など、テクノロジーでその差異を減らすことで、誰もが平等に参加できるスポーツがあっても良いのではないか。それで発想したのが『超人スポーツ』です」と話す。

2015年に発足した超人スポーツ協会には、研究者やエンジニアの他、メディアアーティスト、ゲームクリエイター、そしてアスリートも参加し、新たな競技の開発や募集などを行っている。これまで協会が公式認定した競技は22種目で、中でも、体を透明な球体で覆い、対戦相手とぶつかり合う格闘技「バブルジャンパー」、AR(拡張現実)ゴーグルを装着した3名のプレーヤーが2つのチームに分かれ、仮想のエネルギーをドッジボールのように互いにぶつけ合って対戦する「HADO」などの人気が高い。

稲見さんは、東京大学先端科学技術センターで、人間の感覚や行動をテクノロジーで支援して向上させる人間拡張工学の研究を行っている。稲見さんの研究が一躍世間の注目を集めたのは今から15年ほど前、SF漫画『攻殻機動隊』に登場する、身に着けた人が透明になったように見える『光学迷彩マント』を実際に作り上げたことだった。漫画やアニメなどのポップカルチャーとテクノロジーを融合することについて稲見さんは「人間拡張工学は、医療を始め社会の多くの課題を解決するのに役に立つはずです。“役に立つ”だけでなく“楽しい”が加わるとテクノロジーはより進化し普及します」と語る。

超人スポーツも、スポーツという枠組みの中でテクノロジーをどう活用するか試行することで、イノベーションを目指している。そのために、協会では、さまざまなバックグラウンドを持った研究者やクリエイター、民間企業が一堂に集まり議論を行い、「すべての参加者がスポーツを楽しめる」、「技術とともに進化し続けるスポーツ」、「すべての観戦者がスポーツを楽しめる」、という超人スポーツ3原則にのっとった競技を考案する「超人スポーツハッカソン」を毎年開催している。

超人スポーツは、アジア圏では香港、台湾を中心に広がっている。また昨年はオランダのデルフト工科大学で、ヨーロッパ各国から集結した競技を発表、体験する「超人スポーツデザインチャレンジ」が開催された。

超人スポーツ協会が目指すのは、競技人口の多いメジャースポーツの創出ではなく、多種多様な競技の展開である。「たくさんの競技があれば、どれか自分に合う競技が見つかるかもしれません。電動バランスボードに乗ってゴールを狙う球技『ホバークロス』の大会では、私が優勝しました。幼い頃からスポーツが苦手だった私にとって、それは非常に印象深い体験でした」と稲見さんは話す。

誰もが参加でき、誰にでも優勝のチャンスがある。超人スポーツは、テクノロジーが多様性と包摂性のある社会の実現の希望となることを示している。