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Highlighting JAPAN

里山と現代アートを巡る旅

千葉県を走る小湊鐵道では、里山、森、滝、そして、現代アート作品と出会う旅ができる。

小湊鉄道は房総半島西岸の市原市の五井駅と、南部の大多喜町の上総中野駅との間、39.1キロを約1時間10分で結ぶ鉄道である。東京都心から市原まで1時間ほどの距離でありながら、人々が自然環境を活かしながら生活している「里山」と呼ばれる地域が生み出す、美しい風景を楽しむことができる。

沿線の田園風景は、小湊鐵道の大きな魅力となっている。春は菜の花と桜が咲き誇り、夏は水田に緑の稲が広がり、秋は木々が紅葉に染まる。

そうした風景を間近に楽しめるのが、2015年から運行を開始した観光列車「房総里山トロッコ」である。かつて小湊鐵道を走っていた蒸気機関車をモチーフにしたディーゼル機関車1両、通常の客車2両、そして展望車2両の計5両編成で、路線のほぼ中間にある上総牛久駅と、終点の上総中野駅近くの養老渓谷駅までの間を、休日を中心に週4~5日、1日2〜3往復、運行している。展望車は、天井の大部分がガラス張りで、側面の窓ガラスも取り外されているので、開放感たっぷりである。トロッコ列車は時速約25kmというゆっくりとした速度で走っており、駅員や沿線の住民が笑顔で手を振って歓迎してくれる。列車が数分間停車する里見駅では、週末や休日に、地元で作った野菜や食べ物がプラットホームで販売される。

小湊鐵道は1925年に五井駅から里見駅の区間で運行が開始され、1928年に全線が開通したが、木造の駅舎、トンネル、橋梁など多くの施設が、今も開業当時の姿のまま使われている。全18駅のうち、上総牛久駅、里見駅、月崎駅、養老渓谷駅など10駅の駅舎や、養老川に架かる橋梁などの施設が2017年に国の登録有形文化財となった。こうした施設は里山の風景に見事に溶け込んでおり、CMやドラマにもたびたび登場している。

小湊鐵道の沿線には様々な観光地がある。特に人気があるのが、養老川沿いにある養老渓谷で、温泉、ハイキング、キャンプなどのレジャーが楽しめる。川沿いのハイキングコースからは、大小様々な滝を見ることができる。その一つ、粟又の滝は、100メートル程の長さの岩肌を緩やかに流れる滝で、11月下旬から12月上旬にかけては、赤く染まった紅葉と相まって、美しい姿を見せる。

また、小湊鐵道沿線ではアートも楽しめる。市原市では2014年と2017年に、小湊鐵道の沿線を主な会場として、国際芸術祭「いちはらアート×ミックス」が開催されている。芸術祭は、地域の活性化を目指し、廃校となった小学校、小湊鐵道の駅舎や車両、自然と食といった地域の資源を活用したアートプロジェクトが実施された。これまでの芸術祭で展示された作品の幾つかは、地域にそのまま残されている。その一つ、月崎駅に隣接する「森ラジオステーション」は2014年の芸術祭で、アーティストの木村崇人さんが作った作品である。かつて鉄道の保線員の詰所だった建物の屋根や壁を、60種類以上の野草やコケで覆っている。屋根には偏光ガラスがはめ込まれた窓が一つあり、晴れた日には日光が虹色となって部屋に差し込む。

また、飯給駅には、世界的な建築家である藤本壮介さんの「Toilet in Nature」が設置されている。黒い壁に囲まれた、屋根のない約200平方メートルの敷地に、ガラス張りの個室トイレが置かれた作品で、敷地内では春に桜や梅、菜の花が咲く。なお、トイレは女性のみ使用が可能である。

2020年3月から5月には、「日本博」のプロジェクトの一つとして「いちはらアート×ミックス2020」が開催される。美しい花々に彩られた里山を走る小湊鐵道そのものが、アート作品のように映えることだろう。