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Highlighting JAPAN

和食:伝統と職人技の結晶

ユネスコの無形文化遺産に登録されている「和食」は、日本の伝統と技術が凝縮した食文化である。

「一般的に日本食には、様々な伝統料理の他に、ラーメンやカレーなど、元々は外国の料理を日本風にアレンジしたものも幅広く含まれています」と京都の伝統的な日本料理の店「花かがみ」の主人であり、全日本調理師協会の会長も務める麻生繁さんは言う。「一方、和食と言った場合、伝統料理である懐石料理や、各地で長く受け継がれている郷土料理といった料理はもちろんですが、器やお膳、食事をする部屋に飾る花や掛け軸、その部屋に面した庭の造りなども和食の大切な構成要素だと考えています。和食とは日本の伝統や職人技を凝縮した文化と言えます」

2013年に、「和食;日本人の伝統的な食文化」はユネスコの無形文化遺産に登録された。麻生さんは、和食の無形文化遺産登録に向けて、学識経験者や政府関係者と共に、尽力した料理人の一人である。1948年に京都で生まれ、幼い頃から食べることが大好きだった麻生さんは、もっとおいしいものを食べたいという気持ちが高じて料理人を志すことになったと言う。

麻生さんがお店で提供する料理で何より大事にしているのが季節や行事に合わせた献立作りである。例えば、京都では、1000年以上の歴史を持つ北野天満宮で「初天神」と呼ばれる行事が行われる日(1月25日)には、旬の食材である牡蠣を食べる習慣がある。麻生さんのお店でもこの日には必ず牡蠣の料理を献立に入れる。

「年中行事に合わせて何を食べるかが決まっているのです。それによって、家庭の献立も決まりますし、おのずと旬の食材をおいしくいただくことができるようになっています。これは人々の生活の知恵と言っても良いでしょう」

和食が無形文化遺産として認められた際に日本が提出した提案書にも、和食の特徴として、「多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重」と「健康的な食生活を支える栄養バランス」という料理に関することだけでなく、「自然の美しさや季節の移ろいの表現」と「正月などの年中行事との密接な関わり」という日本の四季や行事との密接な関わりについても明記されている。例えば、正月には新年の神を迎えるために、餅つきをしたり、地域の食材を使い美しく盛り付けした「おせち」と呼ばれる特別な料理を食べるといったことである。

こうした食文化を守るために、全国各地の学校や地域において、「食育」が活発に行われるようになっている。また、海外に日本食・和食を広める活動も進められている。その一つとして農林水産省は、2015年から毎年、海外での日本食・食文化の普及を行う「日本食普及の親善大使」を任命している。麻生さんも2016年にその一人として任命され、上海やバンコク、マカオなどで、現地の日本料理店で指導に当たった。そこで麻生さんが感じたのは、現地の料理人の技術が以前に比べると格段に向上していること、さらには冷凍技術の進歩により、日本の食材も手に入れやすくなり、海外でも非常においしい日本食が味わえるようになっているといったことである。今後の課題としては、食材の扱いを改善することを麻生さんは挙げている。

「たとえば魚の場合、締め方ひとつで鮮度や味が全く違ってきます。これは野菜についても同じで、収穫や運搬の方法をちょっと工夫するだけで保存状態は大きく変わってくるのです。日本が長年培ってきたこうした技術は、料理をおいしくいただくためだけでなく、資源を有効活用していく上でも役立つと思います」 これからは和食の料理人の技術や味付けだけではなく、それに関わる様々な分野の人々が磨いてきた職人技やノウハウも広く世界に伝えていきたいと麻生さんは考えている。