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Highlighting JAPAN

瀬戸内海を巡る列車

広島県の呉線は、車窓から美しい瀬戸内海を眺められる鉄道である。駅を降りれば、歴史ある港町や瀬戸内海の島々を訪れることもできる。

広島県を走る西日本旅客鉄道(JR西日本)の呉線は、山陽新幹線が停車する三原市の三原駅と海田町の海田市駅との間、87キロを約2時間20分で結ぶ鉄道である。1935年に全線開通した呉線は、路線の大部分が瀬戸内海の沿岸を運行している。

「呉線は海岸線のすぐ横を走る区間もあるので、多くの島々が浮かぶ瀬戸内海の美しい景色を車窓から楽しむことができます」とJR西日本広島支社の中野雄太さんは言う。

瀬戸内海の景色を船旅気分で満喫できる観光列車が「瀬戸内マリンビュー」である。2両編成の車体の色は、海をイメージしたブルーを基調としており、車両の前面には、パドルと浮き輪が施されている。内装もクルージング船をイメージして、実際に船舶で使用されている羅針盤や海図などが飾られている。列車は週末と休日を中心に、広島駅から呉線を経由して尾道駅までを1日1往復、運行している。

「瀬戸内マリンビューは、海の眺めを存分に楽しんでいただけるように大型の窓を海側に設置しています。また、ボックスシートやソファーシートが配置されており、シートでくつろぎながら景色を見ることができます。特に景色が良いのが、忠海駅と安芸幸崎駅の区間です。海岸線のぎりぎりを走るので、車窓いっぱいに海が広がります」と中野さんは言う。

瀬戸内海は古くから海上交通の要所であり、豊かな漁場であったことから、沿岸には大小様々な港がある。駅の間近にあるそうした港を訪れるのも、呉線の楽しみである。呉線沿いにある代表的な港が呉港である。呉港は明治時代に軍港として整備され、第二次世界大戦後は、造船を中心とする工場が操業し、国内外の船舶が行き交う港として発展した。港では、船を建造するドックの上屋や立ち並ぶ巨大クレーンなど、造船の町ならではの景色を見ることができる。呉市は、2016年に公開され、大ヒットしたアニメ映画「この世界の片隅に」の舞台になったことから、アニメに登場する橋や蔵などを訪れる人も多い。

沿線にある港からは、フェリーに乗って瀬戸内海に浮かぶ島々に渡ることもできる。人気の島の一つが、忠海駅近くの忠海港から約15分の大久野島である。周囲約4キロの大久野島は、通称「うさぎの島」と呼ばれ、1000羽を超える野生のうさぎが生息している。島を自由に跳ね回るうさぎを見るために、日本のみならず、海外からも数多くの観光客が訪れる。

沿線には伝統的な日本の街並みが残された地域もある。中でも、竹原駅から徒歩15分程の「竹原市竹原地区伝統的建造物群保存地区」が有名である。江戸時代初期、竹原湾の干拓地に塩田が作られて以来、竹原は全国有数の製塩地として栄えた。保存地区には、製塩業、廻船業、酒造業で富を築いた商人によって、主に江戸時代から明治時代までに建てられた住宅や酒蔵が軒を連ねており、伝統的な日本の街並みが見事に保存されている。そのため、CM、テレビドラマ、映画のロケ地としても頻繁に利用されている。

「『安芸の小京都』(安芸は広島の古い地名)と呼ばれる竹原では、街並みを活かした観光も盛んです。古民家を利用したホテルやカフェなどでゆっくりと時間を過ごすことができます」と中野さんは言う。

呉線に乗れば、瀬戸内海の美しい景色と、海に育まれた歴史と文化を楽しむことができる。