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Highlighting JAPAN

バリアをバリューに

垣内俊哉さんは、バリア(障害)をバリュー(価値)に変え、全ての人にとって暮らしやすい社会を作ることを目指している。

大阪で創業して10年目を迎える株式会社ミライロは、ユニバーサルデザインのコンサルティングを行っている。社長を務める垣内俊哉さんがこの会社を興したのは大学在学中だったが、起業を思い立ったのはそれより以前のことである。「私には『骨形成不全症』という骨がもろく折れやすい病気があります。子供のころは車いすでの外出に不便も多かったため、できるだけ早く、誰もがそうした不便を感じない社会を実現したいという思いがありました」と垣内さんは話す。

「ユニバーサルデザイン」とは、1985年にノースカロライナ州立大学デザイン学部のロナルド・メイス氏が提唱した概念で、障害の有無に関わらず誰もが使いやすいデザインを目指すというものである。垣内さんは人それぞれが持つ弱点、トラウマ、コンプレックスなどの「バリア」は、視点を変えれば、「バリュー」へと変わると考えており、「バリアバリュー」によって社会を変革することを企業理念として掲げた。

「障害があるからこそ、気が付くことがある。企画や設計にそうした声を反映させることで、誰にとってもより使いやすい新しい発想のものが生まれることもあります」と垣内さんは言う。ミライロの社員87名のうち27名は何らかの障害があり、また同社のアンケート等への協力登録者約5000名も何らかの障害があるので、多様な声がミライロに集まる。それらの声をもとに、社会的に弱者になりやすい立場の人たちも包摂する社会の仕組みづくりに取り組むことが、垣内さんたちミライロのミッションとなっている。

商業施設や公共機関、学校などのバリアフリー化のためのコンサルタントから始まったミライロの事業は、今では、誰もが読みやすい印刷物やサイン標示の作成、手話通訳の派遣、人々の意識を啓発するための教育プログラムの提供にまで及ぶ。また、同社はバリアフリー店舗情報を誰でも投稿、閲覧できる地図アプリケーション「Bmaps」を開発・運営している。「Bmaps」では18万件以上の店舗・施設のバリアフリー情報を日本語、英語、スペイン語、韓国語、中国語で閲覧することができる。車いすやベビーカーの利用者にとって必要な情報となる入口の段差の数や、明るさや広さ、多目的トイレや優先駐車場の有無など、きめ細かい情報を得られるのが大きな特徴である。

こうした同社のビジネスモデルが高く評価され、2018年にはジャパンベンチャーアワードで経済産業大臣賞を受賞している。現在、垣内さんは東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のアドバイザーも務めている。全国の子供たちが参加したマスコット選考に、視覚障害のある子どもたちも触って形が分かるように3Dプリンタで作成した立体的なマスコットのサンプルを配布するなど、数々の施策が国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会の絶賛を集めた。

2019年7月に、垣内さんは大阪府が設置したワーキンググループの委員の一人に選ばれ、2025年の大阪での国際博覧会(万博)を活かした大阪の将来ビジョン策定に携わっている。万博の会期は185日と長いため、取り組むべき課題も多いが、万博は日本が障害者へ向き合う経験値が増える絶好の機会と垣内さんはとらえている。

「1970年の大阪万博の際には、点字ブロックが初めて駅に敷設されるなど、日本のバリアフリーが飛躍的に進みました。2025年の大阪万博でも、人々の意識を含め社会に良い変化が起こる期待感があります」と垣内さんは語る。

垣内さんが大学生だった当時、国内の大学に進んだ障害者の大学生数は約4900人だったが、障害者に配慮した入試制度や学校施設などが広まったことで、現在は約33,000人まで増えた。交通機関にはエレベーターや多目的トイレが設置されるなど、街のバリアフリー化が進んでいる。「日本はバリアフリーに関しては先進国です。私たちにはここで培ったたくさんの経験がある。これをもっと世界に役立てることができると思っています」と垣内さんは語る。