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Highlighting JAPAN

介護の未来をつくる

日本が高齢社会から超高齢社会へと向かう中、介護人材の不足が課題となっている。秋本可愛さんは、若者の介護人材の育成やネットワーク化を通じて、介護業界が抱える課題の解決に取り組んでいる。

2025年には、日本で最も人口の多い世代が75歳以上になり、2065年には総人口の4分の1を75歳以上の高齢者が占めるようになると予測されている。そうした世界でも例を見ない超高齢社会を間近に控え、「介護から人の可能性に挑む」というミッションを掲げ、同世代の若い仲間と共に介護業界の変革に取り組んでいるのが株式会社Join for Kaigoの代表、秋本可愛さんである。

「私は大学で介護の勉強を専門的にしていたわけではありませんでしたが、大学2年の時に入った起業サークルで、メンバーのおばあさんが認知症となり、孫の顔さえ忘れてしまっているという体験を聞きました。それがきっかけで認知症や介護の世界に関心を持つようになったのです」と秋本さんは言う。

その後、秋本さんがメンバーと発行した認知症予防に関するフリーペーパー『孫心(まごころ)』は全国の学生フリーペーパーコンテストで準グランプリを受賞した。そして、大学3年から卒業までの2年間は介護施設のデイサービスのアルバイトを経験し、2013年春の卒業と同時にJoin for Kaigoを設立した。

「介護の現場で過ごした2年間は、有意義でとても楽しい時間でしたが、問題点も見えるようになりました。現場のスタッフは忙しすぎて目の前の仕事をこなすのに手一杯の状況でしたし、離職率の高さや人材不足も深刻でした。若者の介護への関心を高めるとともに、こうした課題を解決したいという思いで会社を立ち上げました」と秋本さんは話す。

厚生労働省によれば、2016年度の介護人材数は約190万人であるが、2025年度末には約245万人の人材が必要になると推計されており、人材育成や離職防止が非常に重要な課題となっている。

Join for Kaigoの事業の柱の一つが、法人や自治体に向けた採用コンサルティングや人材育成のサービス提供である。介護施設の管理職向けに職員の採用、育成、離職防止のためのセミナーや、介護・医療関係者が集まって情報・意見交換するイベントなどを開催している。

Join for Kaigoのもう一つの柱となっている事業が「KAIGO LEADERS」の運営である。「KAIGO LEADERS」は6名の同社社員に加え、介護士、医師、看護師など約70名のメンバーで運営され、主に20代向けの人材育成プログラム「KAIGO MY PROJECT」や「PRESENT」を行っている。「KAIGO MY PROJECT」は様々な職種、肩書、年齢の20名ほどの参加者が意見を交換しながら、それぞれが起業や業務改善のプロジェクトを立ち上げ、実践するという3ヶ月間にわたるワークショップである。「PRESENT」は、様々な分野から招待した講師による講義を踏まえ、講師と参加者同士が議論を進めるプログラムで、介護を考える上での新たな視点、アイデア、人脈を作る場となっている。

これまで、KAIGO LEADERS の活動への参加者は約3500人に達し、起業する人や、職場の業務改善に取り組む人が多数生まれている。例えば、病院の皮膚科に勤めていた医師は、PCやスマートフォンを使って気軽に医療相談ができる介護施設向けのサービスをする会社を立ち上げた。また、ある介護施設の職員は、個々の職員とのコミュニケーションを緊密にして、職員が提案する職場環境の改善策を少しずつ実行することで、1年以上にわたって離職者を出さない職場を作り出している。

「KAIGO LEADERSの活動には、介護の仕事に関わる人だけではなく、様々な業界や組織に属する多くの若者や学生が参加しています。KAIGO LEADERSが掲げる『2050年、介護のリーダーは日本のリーダーになる。』というビジョンには、超高齢社会へ向かう世の中、介護に関する困難な課題を解決できる力があれば、きっとそれは日本の社会全体をより良くする力につながっていくという思いが込められています」と秋本さんは語る。

KAIGO LEADERSの活動拠点も東京だけではなく、2018年には関西、北陸の3カ所となり、さらに2020年までには北海道から九州まで全国8カ所に拠点を増やし、介護に関心を持つ若者のネットワークを全国に広げる予定である。

現在の高齢社会の持つ様々な課題に多くの若者が取り組むことで、介護の世界だけでなく、より良い地域や社会を作っていくという秋本さんのチャレンジは、これからも続く。