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Highlighting JAPAN

未来のいのちを守るために

岩手県釜石市に住む菊池のどかさんは、2011年東日本大震災での自らの被災体験を国内外の人々に語り、命を守ることの大切さを伝えている。

2011年3月11日、岩手県釜石市の釜石東中学校3年生だった菊池のどかさんは、学校で東日本大震災に遭遇した。大津波警報のサイレンが響く中、少しでも高い場所を目指して必死に走った。日頃から一緒に避難する訓練を重ねていた、隣接する小学校の児童たちも後に続いた。

「地震の揺れが収まったら津波が来る。一刻も早く高台へ逃げなければ。そのことは、日頃の訓練を通じて体に染み込んでいました」と菊池さんは語る。

釜石市を含む三陸地方は、古くから津波の被害をたびたび受けてきた。そのため市では、防災教育に力を注いできた。東日本大震災の津波で釜石市は大きな被害を受けながらも、市内の小学生1927人、中学生999人の命が助かり、市内小中学生の生存率は99.8%だった。

この経験は、菊池さんが将来の進路を考えるうえで、重要な道しるべとなった。

「市内の小中学生の多くは津波から避難できた。でも、地域では多くの人たちが命を落としました。私たちの世代が、本気で地域防災と向き合わなければと感じるようになりました」

菊池さんは、自分はどんな立場で地域防災を担うのかということを高校、大学と進む過程で自問自答し続けた。看護師になって災害派遣医療チームで被災者を支援する、教師になって子どもたちに防災教育を行う。いずれも大切な仕事だが、自分が本当にやるべき仕事は他にもあるような気がしていた。

そんなある日、釜石市で震災伝承と防災学習を目的とする「いのちをつなぐ未来館」が2019年春に新設され、常駐職員を募集するとの告知をインターネットで見つけた。「これだ」と思い、彼女はすぐに応募した。

「地域の人たちが、それぞれの知恵や経験を生かしながら、命や地域をどう守っていくか。そんなことを日頃から考え、いざという時に行動できる仲間を増やすことが、私のやりたい仕事だと気づいたのです」

現在は、「いのちをつなぐ未来館」のパネルや写真で震災の被害を紹介するコーナーで、自らの被災や防災学習の体験を来館者に語っている。さらに、防災関連の会議やシンポジウムに招かれ、講演やパネルディスカッションを通じて、日本各地に大震災の教訓を発信する活動にも熱心に取り組んでいる。

「様々な活動を通じて、全国で地域防災に取り組む仲間たちとのネットワークもできました。今後は、仲間たちから得た知識やノウハウを、地元の若者や子どもたちに伝えていきたいです」

被災した母校の跡地には、その後「釜石鵜住居復興スタジアム」が建設され、今年、ラグビーワールドカップの会場にもなった。試合開催日前後には、多くの外国人も「いのちをつなぐ未来館」を訪れた。

「未来館に世界中から多くの人たちが集まってくれて、とてもうれしかったです。館内の展示を、まるで自分のことのように涙を流しながら見てくれている方が多く、私自身も救われる思いでした」

防災を進めるに当たっての課題を聞くと、菊池さんはきっぱりとこう答えた。

「『無関心』です。町民に避難を呼び掛け続け、自主防災組織や町内会などに所属する災害に関心があった住民が津波の犠牲になったなど、災害に備えていなかった人を守るために犠牲になった人たちがいることを忘れないで欲しい。無関心な人は、自分自身だけでなく、他者の命を危険にさらすことになってしまうのです。無関心な人を1人でも減らすことで、この地域に貢献していきたいです」