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Highlighting JAPAN

カードゲームと化学の結合

米山維斗さんは、遊びながら化学結合が学べるカードゲームを9歳で考案し、12歳で起業した。現在、日本でヒットしたそのゲームは英語版の準備が進められている。

「ケミストリークエスト」は、化学結合が学べる対戦型のカードゲームである。プレーヤーは水素、炭素、酸素、窒素の元素記号が描かれた48枚の原子カードを組み合わせて、分子にできたカードの数を対戦相手と競い合う。例えば、「水素2枚+酸素1枚=水」「水素3枚+窒素1枚=アンモニア」というように分子を組み合わせ、最後に手持ちカードの枚数が多い方が勝ちとなる。遊びながら化学結合が学べる点が特徴である。

このゲームを考案したのは、現在、東京大学1年生の米山維斗さん(20歳)。考案した2008年当時は9歳だった。2011年に12歳で「ケミストリー・クエスト株式会社」を設立して商品化した。化学をテーマにしたゲームと言うと、難しいという印象を持たれがちだが、発売以来、約13万5000部を売り上げ、2012年にはiOS版アプリの配信も開始した。

米山さんは、探求心の旺盛な子どもだったが、様々な分野に興味・関心を持つようになった背景には、幼稚園時代の体験があると言う。

「園内での生活は全て英語というユニークな幼稚園でした。授業も特徴的で、例えば『自分の住んでいる所を紹介してみよう』というテーマが設定されて、町の紹介、県の紹介、国の紹介、そして地球の紹介とスケールアップしていくのです。その授業がとても楽しかった。単に知識を学ぶのではなく、物事を探求することの楽しさを知ったのはこの時です」

自宅のある神奈川県相模原市にはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の相模原キャンパスがあり、一般公開イベントに頻繁に足を運んだ。図鑑や本を読みあさって宇宙について調べるうちに、今度は「地球がどうやってできたのか」に興味が湧いてきた。そして「古生物」や「鉱物」へと、更にテーマが広がっていく。

「鉱物について調べていると、様々な種類の鉱物は、その一つ一つが異なる元素の組み合わせでできていることが分かってくる。そこからケミストリークエストのテーマである化学に興味を持ったのです」と米山さんは言う。

米山さんがゲームのアイデアを思い付いたきっかけは、昼休みに友人たちが遊んでいた自作のカードゲームだった。

「トランプの『神経衰弱』のようなゲームでした。それを見て『自分も作ってみたい』と思ったのです。化学結合を取り入れたゲームを作って、友人たちと化学の楽しさを共有したいと思ったのです」

11歳の時に、科学や技術を楽しみながら学べるイベント「東京国際科学フェスティバル」でケミストリークエストの体験会を開くと、子どもから大人まで多くの人から高い評価を受け、商品化を勧められた。

そして、ゲームを通じて、もっと多くの人に化学を楽しんでもらいたいという思いから、12歳の時に出版社にゲームの商品化を依頼し、20歳以上離れた出版社の社員と共に、デザインやルールブックの内容などの議論を重ね、商品化が実現した。

米山さんはゲームの商品化と同時に、起業し、取締役社長に就任した。

「商品化しても、自分ひとりでは日本中に広く販売することには限界がある。ならば事業化して、一人でも多くの人にこの楽しさを広めたいと考えたのです」

高校2年生の時には、「ケミストリークエスト」を大幅にリニューアルした新装版を発売した。そして、大学生となった現在は、教養学部で学びながら、「ケミストリークエスト」の海外展開に向けた英語版の準備を進めている。

「世界中の子どもたちが楽しく遊んでくれて、化学に興味を持ってくれたらうれしいです。また、新しいカードゲームも作りたいと思っています。大学生活が忙しくて時間が取れないのが悩みですが、是非実現させたいです」