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Highlighting JAPAN

箏が生み出す未来の音色

大学生でプロの演奏家でもある今野玲央さんは、伝統を学び、受け継ぎながら、日本の伝統楽器である箏の新たな世界の創造に挑戦している。

標準的な「箏」(こと)は、桐製の長い胴に、可動式のブリッジを立て、13本の糸を張っている。通常、床に上に立てたスタンドに置いて、左指と箏爪をはめた3本の右指で演奏する。8世紀頃に中国から渡ってきた楽器を基にしながら、日本独自の音楽を育んできた長い歴史を持つ。

現在、東京芸術大学邦楽科3年生の今野玲央さんは、この箏を自在に操り、箏の古典曲からジャズまで、ジャンルを超える多種多様な演奏活動を行っている。「バイオリンやフルートなど、色々な楽器の演奏家とコラボレーションもしますが、僕はいつも箏にしか出せない音色を最も大切にしています」と今野さんは話す。

箏の魅力を今野さんは「楽器としては少し不器用な所」だと言う。「箏は基本13弦しかなく、一度にたくさんの音を出せませんし、音量も大きくありません。でも、だからこそ、演奏する時は空間に響く音、聴く人が集中するような音と言うように、一音一音にこだわる。そこに箏らしさが生まれるのだと思います」

アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた今野さんは、小学校から高校まで横浜市のインターナショナルスクールで学んだ。小学校の音楽の授業では、箏の演奏が必修になっており、教師の一人はアメリカ人箏曲家のカーティス・パターソンさんであった。生徒も様々な国籍の子供たちが集まるなか、自由に楽しく箏を始めることができたと今野さんは言う。小学生の時に初めて出た全国小中学生コンクールで銀賞を受賞、中学3年生ではグランプリを受賞した。その後、高校2年生で大人も参加する大きな邦楽コンクールで優勝したことで更に注目を集め、「LEO」の名で2017年3月にファーストアルバムを発表した。

その直後の4月に大学に入学したが、1年時は学外での演奏活動を禁止する邦楽科の規則のため、学業に専念した。「礼儀作法から演奏時の姿勢まで、基本となることを1年かけて学ぶのです。それまで思うままに演奏してきた僕にとって、困難な1年間でした」と話す今野さんだが、それが確実に糧になった。およそ100年から400年前に書かれた古典曲を学び直したことも大きかった。「邦楽にも独特の“間”と言うものがあって、やっとそれを現代の箏曲や他のジャンルの曲を弾く時にも取り入れられるようになった。最近の僕の演奏は『成長した』と評価頂くことも多いですが、自分でもそれを実感します」と今野さん。

さらに、他の楽器を専攻する学生や、美術学部の学生とも交流できる芸大の環境が、今野さんの世界を広げたと言う。2年生から演奏活動を再開した今野さんだが、空間演出を含め様々な分野の人たちと演奏会の企画を練り上げて、演奏会を一つの作品にすることが今野さんの目標に加わった。現在制作中の最新アルバムには、自ら作曲を手掛けた筝曲もたくさん盛り込む予定である。中には、箏にエフェクターを取り付けることにより、音色の一部を電気的に変化させる、斬新で挑戦的な曲もある。

「今の日本で箏を習う子供は本当に数少ないです。長い歴史を持つ伝統の文化を衰退させてはいけない。そのためにも僕は活躍して、箏の魅力をより多くの人に伝えたいのです」と今野さんは話す。