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Highlighting JAPAN

「ばたでん」が結ぶ自然と文化の旅

島根県の出雲市と松江市を結ぶ、「ばたでん」の愛称で親しまれる一畑電車に乗ると、湖、温泉、神社、城など、島根の魅力に触れる旅が楽しめる。

島根県出雲市の一畑薬師は、日本海に面する島根半島の中央部に位置する寺院である。1100年以上の歴史を持ち、古くから人々の厚い信仰を集めてきた。1912年、この寺院への参拝者を運ぶ鉄道を運行する鉄道会社が創業した。それが、現在、出雲市に本社を置く一畑電車株式会社である。一畑電車は松江市と出雲市をつなぎ、松江しんじ湖温泉駅と電鉄出雲市駅とを結ぶ北松江線(33.9キロメートル)、出雲大社前駅と川跡駅とを結ぶ大社線(8.3キロメートル)の2路線を運行している。

「鉄道は地元の方々に『ばたでん』と愛称で呼ばれ、地域の欠かせない交通手段となっています。また、観光客の方々からも、ノスタルジックな旅ができる鉄道という評価を頂いております」と一畑電車の加藤学さんは話す。

北松江線の見所の一つは宍道湖の景色である。宍道湖は周囲約47キロ、東西に長いだ円形をしている。松江しんじ湖温泉駅から園駅まで湖の沿岸を走るため、車内や駅からその眺めを楽しむことができる。宍道湖は淡水と海水が混じる汽水湖で、魚介類が非常に豊富である。特に、味噌汁の具材として好まれる貝「しじみ」が有名で、漁師は「じょれん」と呼ばれるかごの付いた長いさおで湖底をかいてしじみを獲る。

「早朝、きらきらと輝く湖面にしじみ漁の小舟が何隻も浮かぶ景色は非常に魅力的です。また、冬は宍道湖側に太陽が落ちてくるので、空と湖面がオレンジに染まる美しい夕日を見ることができます」と加藤さんは話す。

近年のインスタグラム・ブームもあり、多くの観光客が夕日を撮影するために宍道湖を訪れるようになっているが、他にも「インスタ映え」すると人気の撮影スポットがある。その一つが、大社線の高浜駅から徒歩10分ほどにある粟津稲生(あわづいなり)神社である。この神社は、20基の鳥居が真っ直ぐに並ぶ参道と社殿との間を線路が横切っており、鳥居と社殿の間を電車が走るという全国でも珍しい光景を楽しむことができる。

出雲大社前駅もまた、観光客に人気の撮影スポットである。1930年に開設され、国の有形文化財にも指定されている駅舎は、半円形の屋根を持つレトロな洋風建築である。窓にはステンドグラスがはめ込まれており、晴れた日には駅舎内の床に鮮やかな色彩を浮かび上がらせる。

この出雲大社前駅から徒歩10分の所にある出雲大社にも、年間を通じて多くの人が訪れる。出雲大社(正式な読み方は「いづもおおやしろ」)は、縁結びの神とされる大国主大神様(おおくにぬしのおおかみさま)を主祭神として祀っている神社で、日本最古の歴史書である古事記(712年編纂)や、日本書紀(720年編纂)にもその始まりが記されているほどの長い歴史を持つ。

宍道湖北端の湖畔に面した松江しんじ湖温泉駅には足湯も併設されている。駅を出て約15分歩くと、松江城がある。松江のシンボルである松江城は江戸時代初頭に完成した城で、400年以上の歴史を持つ天守は国宝に指定されている。松江城を囲む堀では遊覧船が運航しており、江戸時代の面影を残す城下町を船からゆっくりと眺めることができる。

また、一畑電車の車両には、混雑時を除き、終日全区間で自転車を持ち込むことができ、松江しんじ湖温泉駅、出雲大社前駅、電鉄出雲市駅では自転車の貸し出しも行っている。

「松江しんじ湖温泉駅で自転車を借りて、宍道湖沿いを走り出雲大社を訪ね、帰りは電車で戻ってくるという観光客の方々もいらっしゃいます」と加藤さんは話す。

全区間一日乗放題の乗車券も発売されているため、電車と自転車を活用すれば、出雲と松江の豊かな自然と文化を、より一層満喫できる旅となる。