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April 2020

タップダンスで人をつなぐ

タップダンサーのLilyさんは、教室、ワークショップ、パフォーマンスを通じて、子供から高齢者まであらゆる年齢層の人を楽しませている。

タップダンスは靴底のつま先とかかとの部分に金属板の付いた靴で床を踏み鳴らしながら踊るダンスである。靴底全体で床を踏む「スタンプ」、つま先を付けたまま、かかとを上下させる「ヒール」など、様々なステップを組み合わせ踊る、即興性の高いダンスである。アメリカでアフリカやヨーロッパをルーツとする様々なダンスが融合し、18世紀半ば頃から形作られていったと言われており、20世紀になると舞台や映画を通じて世界へと広がった。

「タップダンスの魅力は、ダンスであり音楽でもあるということです。ステップによって『音色』が変わります。そして自分自身が楽器になれることですね」と、東京を拠点に国内外で活躍するタップダンサーのLilyさんは話す。

岡山県で生まれ育ったLilyさんがタップダンスに興味を持つきっかけとなったのは、中学生の時にテレビで観たシドニーオリピック開催式である。満員のスタジアムで披露された、オーストラリアのダンスチームの迫力あるパフォーマンスに心を揺さぶられた。

高校卒業後、東京で大学生になるとタップダンスを始め、すぐにそのとりことなった。特に、世界的に活躍する日本人ダンサーの熊谷和徳さんの公演を観たことは、ダンスへの情熱を高める大きなきっかけとなった。様々な楽器の演奏と会場の雰囲気に合わせて、変幻自在にステップを踏む熊谷さんのパフォーマンスに、Lilyさんは「なんて自由なダンスなんだ」と惹き込まれた。大学2年生の時には、ドイツ語で「自由」を意味する「Freiheit」というタップダンスサークルを自ら立ち上げ、ダンスを学びながら舞台経験を積んでいった。地域社会の活性化を研究する大学教員を目指し勉強していたLilyさんだったが、4年生の時にプロダンサーとして歩むことを決断する。

「タップダンスは自分にとって人生を賭けて取り組むのに値すると思いました。ダンスを通じて様々な人と交流する中で、その社会貢献の可能性も感じました」とLilyさんは話す。

大学卒業後、タップダンスの本場ニューヨークを何度も訪れ、様々な指導者の下でダンスの技術や歴史を熱心に学んだ。やがて、ハーレムやブロードウェイの有名なクラブやライブハウスでパフォーマンスを行えるようになり、そして本場で高い評価を受けるようになった。日本でも自らのスタジオや大学でダンスを指導しながら、様々なアーティストとのコラボレーション公演、ファッションショーやホテルでのパーティへの出演など、活動の幅を広げていった。

そうした中、2011年に東日本大震災が発生する。Lilyさんは、大学生の教え子と共に被災地で瓦礫撤去などの支援を行ったが、避難所や仮設住宅で暮らす被災者ために運動をする機会を作って欲しいという要望を受け、座りながら誰もが楽しめる「椅子タップダンス」の体験会を宮城県気仙沼市で開催した。これが評判を呼び、それ以来毎年気仙沼の仮設住宅、公民館、小学校などを訪れ、これまでに約30か所で500人以上に椅子タップダンスを教えている。体験会では、小グループに分けてダンスしたり、地元の人々になじみ深い民謡を音楽に使ったりするなど、参加者が互いにコミュニケーションを取りやすいように工夫している。

「多くの方から『体を動かし、人と話して、心が晴れやかになった』という感想を頂いています。これからも被災者の方々に寄り添いながら活動を継続していきます」とLilyさんは話す。

Lilyさんは2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨の被災地でも支援活動を行い、さらに小中学校、身体障害者や高齢者の施設など数多くの場所でダンス体験会を開催している。東京の大学と自身のスタジオで教える生徒数も増え、現在、3歳から80歳代まで、ヨーロッパやアジアの出身者を含め300人以上にタップダンスの楽しさを伝えている。

「タップダンスには、人と人をつなげ、幸せにする力があると信じています。これからは、タップダンスがあまり知られていないアジアの国々にも活動を広げていきたいですね」とLilyさんは話す。