Skip to Content

June 2020

外国法事務弁護士の活動を促進

「外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法」が改正され、外国法事務弁護士及び外国弁護士の国際仲裁代理の範囲が拡大されるなどした。

日本においては、報酬を得て法律に関する事務を取り扱うことができるのは原則として弁護士等に限られている。しかし、1987年施行の「外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法」(外弁法)で創設された「外国法事務弁護士制度」によって、外国の弁護士資格を持っている「外国弁護士」が、一定の要件を満たした場合、「外国法事務弁護士」として、資格取得国(原資格国)の法律に関する事務を日本で行うことができるようになった。

外国法事務弁護士の主な業務は、外国企業との国際取引の代理や契約書作成、海外進出企業への現地法制度に関するアドバイスなどである。また、国際的な取引を巡る民事紛争を、当事者が選任した第三者(仲裁人)の判断で解決する「国際仲裁事件」の手続の代理も行うことができる。

外国法事務弁護士として活動するには、法務大臣による承認と日本弁護士連合会の外国法事務弁護士名簿への登録が必要である。外国法事務弁護士として登録している者は、2019年4月現在、421名(原資格国別:アメリカ221名、英国72名、中華人民共和国44名など)である。

外弁法はその成立以来、外国法事務弁護士となるための職務経験要件緩和など、これまで累次の改正が行われてきたが、近年、企業の国際取引の増加などに伴い、外国法に関する法律サービスのニーズが拡大するなど、更なる改正への必要性が高まっていた。さらに、国際仲裁の取扱件数が世界的に増加しており、裁判に依らない国際仲裁が、企業間の国際紛争解決の手段としてグローバルスタンダートとなってきていることもある。特に、シンガポール、マレーシア、韓国などアジア諸国は、国際紛争解決のハブ化を目指した振興策を実施している。こうしたことから、日本政府は法曹界、経済界、学会との議論を踏まえ、外国法事務弁護士等による国際仲裁事件の範囲拡大等を目的とした改正外弁法案を2019年10月国会に提出し、2020年5月に成立した。

改正外弁法の主な内容は以下の3点である。

(1) 国際仲裁代理の範囲拡大・国際調停代理の規定整備

改正前、国際仲裁事件の定義は、国内を仲裁地とする民事事件で、「当事者の全部又は一部が外国に住所又は主たる事務所若しくは本店を有する者」としていた。しかし、この定義では、外国企業子会社である日本法人が紛争当事者である案件、あるいは、仲裁地を外国とすることが紛争当事者で合意され、審問手続の一部が日本国内で行われる案件などに、外国法事務弁護士等が関与できないという課題があった。こうしたことから改正外弁法では外国法事務弁護士が手続を代理することができる「国際仲裁事件」の範囲が拡大された。「国内を仲裁地とする」という要件は撤廃され、外国を仲裁地とする案件も、国際仲裁事件として扱われることとなる。また、外国企業子会社である日本法人のように、当事者全部が国内に本店や事務所がある場合でも、当事者や仲裁判断で準拠すべき法律が外国と一定の関連性がある場合には、国際仲裁事件として扱われるようになる。

 これに加えて今回、国際調停事件の定義が新設され、事業者間の契約・取引紛争など商事紛争に対象が限られるものの、国際調停事件においても外国法事務弁護士等による手続の代理が可能となる。

(2) 職務経験要件の緩和

改正前の外弁法では、外国法事務弁護士の資格を得るには、資格取得国等の外国での職務経験が3年以上必要とされ、この内1年を上限として、日本国内において弁護士等に雇用され資格取得国の法律に関する知識に基づいて行った労務提供期間を算入できるとしていた。しかし、最低でも2年間資格取得国等での職務経験を積むために日本を離れなければならない外国弁護士がいることや、外国法事務弁護士は、日本で労務提供の経験をより長く積んでいることが法律サービスの向上という点で望ましいといった意見を踏まえ、日本での労務提供期間の算入上限が2年に拡大されることになった。

(3)共同法人制度の創設

日本では2001年に弁護士法が改正され、弁護士が社員となり複数の事務所で法律事務を行う「弁護士法人」を設立することが可能になった。そして、2014年には外弁法の改正によって外国法事務弁護士のみを社員とする法人「外国法事務弁護士法人」の設立が、そして、今回の改正で弁護士と外国法事務弁護士がともに社員となる法人「弁護士・外国法事務弁護士共同法人」が設立できるようになる。日本各地で日本法と外国法に関して、ワンストップで法律サービスを提供できる共同法人が増加すれば、ユーザーの利便性の向上、日本の中小企業の海外進出促進といった効果が期待される。

なお、(1)と(2)に関しては、2020年8月、(3)に関しては2022年11月までの政令で定める日に施行される。

外国法事務弁護士の登録数の推移
(注1)各年ともに4月1日現在の統計データである(日本弁護士連合会の統計調査による)。
(注2)「外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法」の施行日が1987年4月1日であり、同日時点での登録者はいない。