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  • 東京・日暮里にある蕎麦屋の片山昭さん製作ののれん
  • 型紙の文字を切り抜く片山さん
  • 2つののれんを製作する片山昭さん
  • 乾かすために吊るされるのれん

September 2020

お店の顔「のれん」

東京・日暮里にある蕎麦屋の片山昭さん製作ののれん

日本の飲食店などの入り口に掛けられる布でできた「のれん」は、どれも個性的なデザインが施され誇らしげに見える。昔ながらののれんは、伝統を継承する職人の手作業によって丹念に仕上げられている。

型紙の文字を切り抜く片山さん

日本の多くの飲食店や商店には、固定されている看板とは別に、開店時間とともに店の出入り口に掛けられ、閉店とともにしまわれる「のれん」と呼ばれる布がつり下げられている。客は、そののれんをくぐり抜けて店に入り、のれんをくぐり抜けて店から出ていく。のれんには、店名や、お店の業種を象徴する図柄などが染め抜かれていることが多い。のれんは古くから商店の戸口の日よけ、風・ほこりよけ、目隠しとして使われると同時に、店の広告や看板としての機能も果たしており、言わばお店の顔である。日本には「のれんに傷が付く」という言い方がある。この場合、のれんは、それを掛けるお店の信頼や評判、格式を表し、それに傷は付くということは、お店そのもの信用失墜などを表している。

東京都荒川区の隅田川沿いにある片山のれん染工所は、約100年にわたって蕎麦店を始めとする飲食店ののれんを主に作り続けている。蕎麦といえば、東京の食文化を代表する特別な食べ物である。三代目の片山昭さんは、そうした「お店の顔をつくる仕事」に誇りを持って昔ながらの手仕事を続けている。

例えば紺地に白を浮かび上がらせるのれん作りの場合、文字や図案を切り抜いた紙の型紙作りから始まる。その型紙を木綿や麻の生地の上に置き、その上からもち粉を原料とする防染のりを乗せる。そして、それを染料に漬けたり、染料をハケで塗って、鮮やかな色合いに染め上げる。のりを洗い流せば白地がきれいに浮かび上がる。片山さんの技術は地域の特色ある文化と認められ、荒川区の無形文化財に指定されている。

2つののれんを製作する片山昭さん

「染めることで布地は強さを増します。店先で長い年月、鮮やかな色を保ち続けることがのれんの使命だと思います。ですから長く使い続けてもらえるほど、喜びも大きいのです」と片山さんは言う。「かつては、夏は麻、冬は木綿というように季節ごとにのれんを掛け替える店が多かったのです。そんなふうに自分の店を大切にしてきた伝統が、廃れていくのは寂しい」

先代の頃までは近くの隅田川沿いには染色工房が集まり、のりを洗い落とす作業が見られたが、今ではこの地域の染色工房は片山さんの工房を残すばかりとなった。

伝統を守り続けてきた片山さんの工房には、昔ながらの手作りのものを求めて、全国からの注文が舞い込むようになってきているという。最近、依頼者が、工房の人と直接相談しながら、自分の好みや店の特徴をしっかりと伝えて、必ずしも伝統にとらわれないのれんをつくることも多いという。

乾かすために吊るされるのれん

工房の四代目を引き継いだ、息子の琢滿(たくみ)さんは、他のデザイナーとのコラボレーションを通じて、これまでにないモダンな新しい図柄をデザインしたり、また藍染のワークショップを開催して一般の方々に染物の伝統や美しさを伝える活動を行っている。さらに琢滿さんは、最近、のれんの生地を染める原料となる植物の藍や茜(あかね)を、大都会東京で、自分で種をまいて育てることにも挑戦している。さらに、のれん作りの技術を応用し、家紋などのエンブレムを染めた手ぬぐい、ランチョンマットやクッションなどの製作を計画している。

のれん作りの伝統技術が代々引き継がれていくともに、染色表現の新たな可能性を追求する取組が始まっている。