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  • 農研機構で作られた品種と米。左:笑みの絆、中央:コシヒカリ、右:いただき。
  • 米の収穫前
  • 農研機構で作られた品種と米。左:笑みの絆、中央:コシヒカリ、右:いただき。
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November 2020

稲の品種改良の歴史と今

農研機構で作られた品種と米。左:笑みの絆、中央:コシヒカリ、右:いただき。

日本の稲の品種改良は、その時代の社会情勢を反映して、収量性から、「おいしさ」へ、さらに、近年は輸出なども見すえて低コスト生産が可能で多収・良食味であることへと目標が変化してきた。また、今日、その100年余にわたる技術の成果は、世界の食糧事情改善にも貢献することが期待されている。

農研機構で作られた品種と米。左:笑みの絆、中央:コシヒカリ、右:いただき。

日本の稲作は、今から約3000年前に始まったと言われている。それ以来、明治時代までは人々は、ごく稀に起きる自然突然変異で生じた稲の変わり種の中から、自分たちの地域にあったものを選抜するなどして品種改良は行われてきた。しかし遺伝学に基づかない品種改良のあゆみは遅く、農家は、冷害や害虫などによる凶作と常に隣り合わせで、餓死者(がししゃ)が発生することもしたしばしばであった。人々は無事に米を収穫できるように祈るしか方法はなかった。

19世紀末、日本政府は農事試験場を開設し、収量性や耐病性耐冷性など、の向上を目指して本格的な稲の品種改良を始めた。1921年、日本最初の人工交配によって生まれた優良品種が「陸羽(りくう)132号」で、これは、冷害に強い品種と味の良い品種とを交配してできた品種である。1956年に誕生した日本のトップブランド米「コシヒカリ」は、この「陸羽132号」の孫に当たる。

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)次世代作物開発研究センター稲研究領域 領域長の石井卓朗(いしい・たくろう)さんはこう語る。

「現在、日本で栽培されている米の種類は300品種以上あり、その中で作付面積最多の33.9パーセント(2019年産)を占めているのが「コシヒカリ」です。続いて2位「ひとめぼれ」、3位「ヒノヒカリ」、4位「あきたこまち」、5位「ななつぼし」です。これらは消費者に人気の高いブランド米であり、全て「コシヒカリ」の子孫です。」

高度経済成長期頃までの品種改良の目標は、米の自給のため、「収量性」だったが、米の生産過剰が顕在化した1970年頃からは、「おいしさ」をより重視する傾向へと変化していった。「コシヒカリ」は栽培中に倒れやすく、かつ病気にも弱いといった栽培上の弱点がありながら、ふっくらもっちりとした粘り気と、強い旨みがある日本人好みの食味の良さから人気となった。石井さんは、近年はおいしさに加えて、多収性や耐病性を付与することにより生産コストの低減を図れる品種の育成が重要だと語る。

「レストランやテイクアウトの食品店では、おいしくて値頃感のある米が求められます。そこで、生産コストの削減を図るために導入されている技術の一つが、従来のように苗を育ててから田植えをするのではなく、田んぼに直接、種籾(種もみ)をまく直播(じかまき)栽培です。農研機構で開発した“ちほみのり”は、多収で食味が良く、かつ草丈が短くて倒れにくい直播栽培向きの品種です。現在、日本では大規模経営体を中心に直播栽培を取り入れる生産者が増加しています」

米の収穫前と収穫後

寿司などの日本食が世界に広がっていることから、海外輸出も視野に入れた品種改良も行われている。農研機構で育成した品種の一つ、「笑(え)みの絆」は、炊いた米は粘り気が強すぎないため、寿司酢によくなじみ、ほぐれやすくあっさりした食感となるため、寿司米に向く品種である。シンガポールなどのアジアを中心に輸出も始まっている。

また、近年は地球温暖化に対応した品種も求められている。米粒が発育し大きくなる登熟期に気温が高すぎると、米粒が白く濁るなど品質が著しく下がる。一方、冷害のリスクもゼロではないため、農研機構では高温にも低温にも対応できる品種が研究されている。

「1998年~2004年、日本が主導した国際コンソーシアムでイネゲノムを解読し、イネの塩基配列*が決定しました。この情報に基づいて、イネの葉からDNAを抽出するだけで、その個体の耐病性などが判断できるようになりました。イネのゲノム情報を利用した品種育成の技術は、耐病性や収量性の向上など、目的とする品種の効率的な育成を可能とし、世界の食糧事情に大きく貢献できると考えています」と石井さんは話す。

長年、日本で培われてきた品種改良の技術が今後、世界にも大きな実りをもたらすことが期待されている。

* 核酸の分子内での、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種ある塩基の並ぶ順序。