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  • システィーナ礼拝堂天井画が原寸大で再現された大塚国際美術館のシスティーナホール
  • キトラ古墳の壁面の再現に取り組む技術者
  • 技術者が釉薬を塗り重ねて、原画の色や立体感を再現する。
  • 焼成された陶板
  • 陶板に複製されたキトラ古墳の白虎。壁面の汚れやひび割れも忠実に再現されている。

December 2020

陶器に残る名画

システィーナ礼拝堂天井画が原寸大で再現された大塚国際美術館のシスティーナホール

日本の伝統的な陶器づくりに最新の技術を加味することによって、世界の美術作品も傑作が忠実に再現されている。

技術者が釉薬を塗り重ねて、原画の色や立体感を再現する。

1998年に開館した徳島県鳴門市の「大塚国際美術館」には、システィーナ礼拝堂天井画、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」、ピカソの「ゲルニカ」など1000点を超える世界の名画の複製が展示されている。その全ては、陶器で作られた板である「陶板」の上に、原画のサイズ、色、筆遣いなどが忠実に再現された複製である。その再現性は、原画の所有者からも高く評価されている。これらの作品を製作しているのが、日本を代表する陶器の一つとして知られる「信楽焼(しがらきやき)」の産地、滋賀県甲賀市信楽町に製造拠点を置く大塚オーミ陶業株式会社である。当時の大塚製薬グループの住部門として設置された同社は1973年、鳴門の白い砂を材料としたタイル生産を主業務として始まった。

「タイル生産を始めようとした頃、オイルショックで建築用タイルの需要が見込めなくなったため、陶器の絵付けの技術で名画を再現して付加価値を付けてはどうか、というアイデアが生まれました」と、代表取締役社長の大杉栄嗣さんは語る。

焼成された陶板

原寸大での複製を基本とする陶板名画の製作は、著作権者の許諾、現地での原画の調査から始まる。調査では細部のキズや凹凸なども綿密に記録し、様々な角度や条件で写真を撮る。そうして得られた画像データを色分解し、各色を焼き物用絵の具で刷り重ねた転写シートを作成する。これを陶板の上にのせて1000度から1350度の高温で、約8時間かけて焼いて定着させる(焼成)。さらに、技術者が手作業で陶磁器の表面に付着したガラスの層の釉薬(ゆうやく)を塗り重ねることで、細部の微妙な色合いや質感、筆使い、立体感を再現する。釉薬は焼くと色味が変化するため、仕上がりを計算しながら、多い場合5〜6回の着色と焼成を繰り返す。通常、陶器は変形したり、割れたりするので、一度しか焼くことができない。同社では、材料の配合や焼成温度の研究により複数回の焼成を可能にしたことで、釉薬によって再現される色は、2万色以上に及ぶという。

現在の陶板の最大サイズは世界最大級の3メートル×90センチメートルで、これを超える作品は分割して作られる。最終的には監修者や原画の所有者による検査を経て、承諾を得られたものだけが公表される。

キトラ古墳の壁面の再現に取り組む技術者

「色の再現が特に難しい。色数だけではなく、釉薬独特のガラス質の光沢をコントロールすることで、初めて多彩な表現が生まれる。ここ信楽に蓄積された釉薬の技術には多くを学びました」と、大杉さんは言う。

陶板による名画複製の最大のメリットはその強靭さで、2000年を経ても色褪(あ)せることはない。湿度はもちろん光にも強く、照度を落とした保護照明でしか見られなかった作品も、明るい室内や屋外で見ることができる。また直接手で触ることができるため、材質感や絵の具の凹凸が感じられる、そんな新しい鑑賞法も生まれている。

2009年には、文化庁からの依頼を受け、奈良県にある「キトラ古墳」の石室に描かれた壁画の複製に取り組んだ。キトラ古墳は7世紀末から8世紀初め頃に造られたと推測される古墳で、その石室(奥行2.4メートル、幅1メートル、高さ1.2メートル)の天井・側壁には天文図や、青龍、白虎(びゃっこ)などの神獣が極彩色で描かれている。このプロジェクトでは3万点にも及ぶ画像データをもとに、描かれた絵画、漆喰の壁面の素材感、ひび割れなど、専門家を交えて厳密に再現された。同社の陶板による複製は学術的な保存・展示にも有効であるとして、2018年には経済産業省の「ものづくり日本大賞」内閣総理大臣賞を受賞した。

陶板に複製されたキトラ古墳の白虎。壁面の汚れやひび割れも忠実に再現されている。

「今後は3Dスキャンで得られたデータを活用し、積層*や切削といった加工方法で陶板での再現性や表現性を高める技術開発も進めるとともに、技術者の養成にも力を入れていきます」と大杉さんは話す。

最新技術、信楽で培われた伝統技術、そして、技術者の確かな手業が、日本と世界の価値ある文化遺産を再現して未来へと伝えていく。

* 積層とは土の層を積み重ねること