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  • 久保田雅晴・国土交通省大臣官房公共交通・物流政策審議官

March 2021

スマートモビリティチャレンジ

久保田雅晴・国土交通省大臣官房公共交通・物流政策審議官


日本は、地域の課題解決や経済活性化に貢献する新たなモビリティサービスの普及に取り組んでいる。国土交通省の大臣官房公共交通・物流政策審議官の久保田雅晴さんに、政府の取組について話を伺った。

日本の公共交通は、どのような課題に直面しているでしょうか。

少子高齢化、人口減少が進む日本において、特に地方では、公共交通の需要が減少しています。多くの地域で、人口減少と自家用車の普及によって、公共交通サービスの維持がますます難しくなっています。また、近年、運転能力の低下による事故を心配して、運転免許を返納する75歳以上の高齢者も増えているため、高齢者の移動手段確保も課題となっています。さらに今後、15歳から64歳までの生産年齢人口が減少し、様々な分野で人手不足が予測されていますが、公共交通を担うドライバーの確保も大きな課題になると考えられています。

そうした課題を解決するために政府はどのような取組を行っているか教えてください。

取組の一つが、2019年6月に、国土交通省と経済産業省が開始した「スマートモビリティチャレンジ」です。IoT、AI、自動運転などの技術を活用した移動サービスの導入によって、地域の課題解決や経済の活性化を目指す地方自治体や民間企業を支援しています。2020年度には、その対象地域として全国で52地域が選定されました。これらの地域の多くでは、MaaSの実証実験が実施されています。MaaSは2016年にフィンランドで初めて実用化された後、ヨーロッパやアメリカなど世界各国に広がっています。その定義を大まかに言えば、地域住民や旅行者が目的地に行く際の、鉄道、バス、タクシー、自転車など様々な移動手段を最適に組み合わせて、検索、予約、決済を一括して提供するサービスのことです。

MaaSで予約すれば、利用者は、出発地から目的地まで移動をスムーズに行うことができるようになります。また、事業者は、データの共有や運行の調整を行うことで無駄のないサービス提供が可能となります。環境への負荷の面からも、自家用車から公共交通へのシフトを促すことで、二酸化炭素排出の抑制にもつながります。

日本のMaaSにはどのような特徴や可能性があるでしょうか。

海外のMaaSは移動サービスの提供が中心ですが、日本では多様な業種の企業が参加し、様々なサービスの提供に活用されています。例えば、2020年度にスマートモビリティチャレンジの対象地域に選定された愛媛県の南予地域では、鉄道やバス会社の他に、観光、保険、飲食などの企業が連携して、周遊チケットの販売、地域の観光や特産品、旅行保険などの情報発信などのサービスを一括的に提供する実証実験を実施しています。

日本の交通事業者は、自社の沿線地域において、商業、観光、物流、不動産など、交通以外の分野でも、幅広くサービスの提供を行っています。そうした企業がMaaSとの提携を図り、利用者は移動手段のほかに、ショッピング、飲食、宿泊、さらには、福祉、教育、医療など包括的なサービスの提供を受けることが可能となり、より豊かで便利なまちづくりにつながると期待されています。

今後、スマートモビリティチャレンジでは、どのような取組を行う計画があるか教えてください。

例えば、新型コロナウイルス感染症対策へのMaaSの活用です。2020年度に対象地域に選定された北海道の十勝地方では公共交通の混雑状況に関する情報を、また、石川県加賀市では、店舗や観光施設の混雑状況や感染症対策の情報を、それぞれスマートフォンを通じて提供することとしており、これが混雑緩和にどのような影響を与えるかを検証します。今後、顔認証、キャッシュレス決済、電動キックボードなどの一人用の乗り物などの方法で、混雑分散や人と人との接触の機会を減らしながら、公共交通の利用を促進させる取組を広げていきます。

スマートモビリティチャレンジをきっかけにMaaSは将来、人々のライフスタイル、まちづくり、地域経済に大きなインパクトをもたらすイノベーションとなる可能性を秘めています。各地で行われている実証実験から得られるデータや課題を他の地域にも提供し、MaaSを全国に広げていきます。さらに、また、海外にも日本で構築した「日本版MaaS」の知見を共有・展開し、世界の人々のより良い生活に貢献することを目指したいと思います。