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  • 近江上布の生平
  • 近江上布の絣
  • 近江上布の夏向け着物
  • 手で麻の糸を作る「手績み」
  • 細部へのこだわりが求められる絣糸を織る様子

August 2021

夏の暑さに適した手作りの麻織物

近江上布の夏向け着物

日本最大の湖「琵琶湖」の東側、滋賀県の湖東地域は、600年以上も続く麻織物の産地である。今日では、伝統技法を守りながら、着物のみならず、質とデザイン性を兼ね備えた新しい用途の製品に取り組んでいる。

近江上布の生平

日本では、「ヘンプ(大麻)」、「ラミー(苧麻(ちょま))」「リネン(亜麻)」から作られる織物は、ひとまとめに「麻織物」と総称し、また、上質な麻織物を「上布」という名前で呼んでいる。吸水性や発散性に優れているこれらの麻織物は、熱や湿気を体の外に逃がしやすく、また、綿や絹に比べて繊維が硬く風通しが良い。さらりとした肌触りで、夏の衣服に最適の素材である。

麻織物の中でも、現在最もポピュラーな「リネン(亜麻)」が日本に紹介されたのは明治時代(1868~1912年)以降のこと。それ以前、日本では麻の別の種類であるヘンプとラミーが用いられてきた。特にヘンプは、古くから神様が降臨する神聖な場所を示すしめ縄や、相撲力士の最上位である横綱が身につける化粧まわしなど、神事に用いられる神聖なものだった。繊維を裂いて撚(よ)りをかけ、1本1本つなげて糸を紡ぐが、繊維が短いため、非常に手間がかかる。

近江上布の絣

室町時代(1336~1573年)からヘンプとラミーの織物の産地として名高い滋賀県の湖東地域は、約600年間、ほぼ変わらない技術を用いた手作業で作られる特産品「近江上布(おうみじょうふ)」を提供し続けている。日本政府指定の伝統的工芸品に指定された近江上布は2種類で、「絣(かすり)」と「生平(きびら)」だ。絣は、織り上げた時に絣模様が表れるように、型紙捺染(かたがみなっせん)という技法で染めたラミー糸で織られている。また、絣には、生地を揉(も)むことで、表面にしわ(しぼ)を作ったものもある。生平は、経(たて)糸にラミー、緯(よこ)糸に手績(う)みのヘンプを使って平織りしたものである。手績みは、ヘンプを手で裂いて細い繊維にして、それらに撚(よ)りをかけてつないで糸を作る工程で、非常に手間がかかる。ラミーに比べて繊維が粗く硬質のヘンプは、昔は農作業着として使われることが多かったが、それを、着物を始め様々な用途に使えるように、湖東地域では高い技術力で、肌ざわりの柔らかい高品質の織物に仕上げた。

「他の麻織物の産地では、扱いやすいラミーを使った麻織物が作られてきましたが、湖東地域では、あえて繊維として粗野なヘンプにチャレンジしたのです。そして、ラミーに負けない風合いを持つ生平を生み、ラミーの絣とともに近江上布のブランドを確立しました」と近江上布伝統産業会館の田中由美子さんは話す。

手で麻の糸を作る「手績み」

「丁寧に績んだ糸を使って織りあげた生平は、リネンよりも手触りがやわらかです。以前、東アジアの国の方が湖東地域の麻織物に触れ、『こんなに気持の良い肌触りのものを私は知らない』とおっしゃっていました。それだけ、日本の麻織物の品質が高いことだと思います。また、絣は、織り上がった生地を手で揉み込む縮み加工をするので生地と肌の間に隙間ができます。肌に触れる面積が少なくなるため、とても涼しく、さらっとした肌触りなので、暑く湿度の高い日本の夏に着るには最適だと思います」

しかしながら、手間暇かかるヘンプ、あるいはラミーの麻織物は市場で見かけることは少なくなった。現在、日本の麻織物の80〜90パーセントはリネンで、ラミーが10パーセント弱、残り、わずか数パーセントほどがヘンプなのだという。

細部へのこだわりが求められる絣糸を織る様子

「質の良い素材のみで丁寧に糸を紡ぐので、生平の糸は1日に5〜10グラムしか作れません。着物の帯用の糸を作るだけで2〜3ヶ月、織り上げるには約半年かかります。そのため、帯1本の価格が相当高額(米ドル換算で約9000ドル)になってしまいます。なかなか売れるものではありませんが、『たとえ時間がかかっても欲しい』と言ってくださる方もいます。日本で採れたヘンプを材料として商品を作り、売る、という産業が生き残っているのは、今ではここだけになりました」

「夏の涼感を味わう近江上布をなんとしても途絶えさせることなく受け継いでいく」。これを課題にしている近江上布伝統産業会館は「織り人」の育成に取り組みながら、伝統産業の麻織物の発信のために、現代の機械織りの生地で、現代の生活スタイルにも合ったマスク、タオル、エプロン、ヘアターバンなどの製品開発を進めている。これらの製品はデザイン性も重視され、近江上布の価値を高めている。

麻織物の原料の種別