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  • 「遠方の山」を連想させる水石
  • 長い年月をかけて風雨に晒(さら)して古びた味わいのある水石

October 2021

水石:一つの石に表れる自然の本質

「遠方の山」を連想させる水石

日本で独自の発展を遂げた自然鑑賞の伝統文化の一つに「水石」がある。日本人の自然観や美意識が強く反映された水石は、近年、世界からも注目されている。

長い年月をかけて風雨に晒(さら)して古びた味わいのある水石

「水石(すいせき)」は、一つの自然石を観賞する芸術である。水石は日本庭園を小さな盆の中で表現して、それを鑑賞する「盆石」の中核とも言われる。川端康成 は「美しい日本の私」の中で「日本の庭園もまた大きい自然を象徴するものです。[中略]その凝縮を極めると、日本の盆栽となり、盆石となります。」と表現している。言い換えるなら、水石や盆栽は、自然の大きさや本質を鑑賞する日本の伝統文化の両輪をなすと言える。

水石は、14世紀に伝わった中国の愛石趣味に端を発しているとされ、後醍醐天皇(1288-1339)所用とされる石が伝来している。その後、多くの知識人や茶人、実業家などが水石に魅せられ、日本人の自然観が強く反映されるようになった。

石を鑑賞する文化は世界中に様々あるが、日本の水石では真っ黒な色なものが最上とされる。これは、石の奇抜さや華やかさではなく、深山幽谷の自然の趣きや、造化の妙を感じさせる石の力に価値が置かれてきたからである。

「石そのものを御神体とする神社もあるように、古来、日本人は石に強く神性を感じてきました。そうした感性が水石にはぎゅっと凝縮されている」と、盆栽づくりの第一人者で、春花園BONSAI美術館創立者、社団法人日本水石協会理事長の小林國雄さんは語る。

水石の面白さは、まずその形の見立てだ。鳥や獣、神仏や聖人の姿を連想させる作品は比較的分かりやすい。また、海に浮かぶ島や入江の様子、山肌を流れる滝など、自然の景色を表す石もある。中でも、遠方の山は、水石の基本ともなる重要なモチーフだ。その石にどんな形や風景を見出すか、そこには見る人の美意識や創造性が「みたて」によって発揮される。

日本水石協会によれば、水石としての石の可能性を評価する五つの要素があるという。優れた水石は、良い「質」で、良い「形」、表面の「肌合い」、「色」があり、そして、「時代」を感じさせる姿である。特に時代の要素では、誰がどんな経緯で所有した石なのか、その所有者やエピソードなども観賞の対象となっていく。さらに、石を育てることが、石に風格を持たせることになる。

「採取してきたばかりの石は、角が尖った荒々しい印象です。これを屋外に置き、長い年月をかけて風雨に晒したり天日に干したりして、古びた味わいをつくっていく。水をかけると石の表情(肌合い)も変わって見えますし、石の質によって水の吸い方や経年変化の様子も変わってきます」と、小林さんは語る。

近年では水石が広く諸外国にも受け入れられ、海外から日本の展覧会に出品する愛好者も増えている。そうした人たちの作品は斬新で、常に刺激を受けていると小林さんはいう。

「水石は誰でもどこでも始められるので、まずは自身で河原や山に出かけ、石を探すことから始めてほしい」

河原や山に転がる自然の石を拾い上げ、手に取って眺めれば、そこには小さな宇宙が広がる―。まずは、そんな発見が、水石の楽しみ、鑑賞の楽しみの第一歩であろう。

* 日本人初のノーベル文学賞を受賞した、日本の小説家、文芸評論家。(1899年-1972年)