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  • 海辺の家族の暮らし
    瀬戸内海を背景に、淡路島に住むサリー・ハンコックスさん(右) 、夫の岡田淳一さんと子供たち。「私の家は、夏には海水浴が楽しめる海まで徒歩1分のところにあります。子供たちも毎日、海や山でのびのびと遊んでいますよ」とハンコックスさんは言う。
  • 天日干し中の藍染め作品
  • ハンコックスさんがみずから壁画を描いた藍染め工房AiAiiの建物
  • ハンコックスさんと夫の岡田淳一さんが染めた藍染め作品が並ぶ工房のショップ
  • 淡路島を訪れる外国人のための、藍を使った絞り染めを体験できるワークショップでのハンコックスさんの様子(新型コロナウイルス感染症による制限の前の写真。)
  • 洲本市の地域おこし協力隊の活動として、ハンコックスさんが描いた商業施設の階段
  • 天然染料の「すくも」のベースとなる発酵中の藍の葉
  • 「すくも」で染液を作るハンコックスさん(右)と夫の岡田淳一さん

November 2021

淡路島で藍を染めるイギリス人

海辺の家族の暮らし
瀬戸内海を背景に、淡路島に住むサリー・ハンコックスさん(右) 、夫の岡田淳一さんと子供たち。「私の家は、夏には海水浴が楽しめる海まで徒歩1分のところにあります。子供たちも毎日、海や山でのびのびと遊んでいますよ」とハンコックスさんは言う。

イギリス出身のサリー・ハンコックスさんは、瀬戸内海に浮かぶ淡路島で藍染め作品を作りながら、島の魅力を発信している。

天日干し中の藍染め作品

兵庫県の淡路島は、瀬戸内海東部に浮かぶ、面積592キロメートルほどの島だ。年間を通じて温暖な気候に恵まれ、のどかな田園風景が広がる。

サリー・ハンコックスさんは、2015年、最初の子どもがお腹にいる時に淡路島の南あわじ市に移住した。2019年には同じ島内の洲本(すもと)市に移り、夫の岡田淳一さんとともに藍染工房「AiAii」を営んでいる。

ハンコックスさんがみずから壁画を描いた藍染め工房AiAiiの建物

ハンコックスさんは、イギリスの大学でイラストレーションや織物を学んだ。もともと異文化に興味があり、大学卒業後、2010年にワーキングホリデーで日本に渡り、大阪で日本語を学びながら壁画アートの制作などアーティストとしての活動を行っていた。この時、アートイベントで知り合った兵庫県出身の岡田さんと結婚。二人はロンドンで生活を始めたが、家庭を築こうと決めた時、二人とも好きな海が見える自然豊かな地での生活を望むようになり、岡田さんの故郷、日本でいくつかの候補地をめぐった。そして「ここなら」と決めたのが淡路島だった。

ハンコックスさんと夫の岡田淳一さんが染めた藍染め作品が並ぶ工房のショップ

南あわじ市の穏やかな暮らしの中で、ハンコックスさんはアーティストとしての活動を再開する。

「私は、テキスタイルを使ったアート作品を作ってきたこともあり、藍染に惹かれました。藍染は私にとって、もっとも日本を感じさせるものなのです」とハンコックスさんは言う。2019年に、洲本市が募集していた、地域コミュニティの中での協力活動を促進する全国自治体プログラムの一部、「地域おこし協力隊」に採用され、藍染の工房と店舗を兼ねる「AiAii」を開いた。

淡路島を訪れる外国人のための、藍を使った絞り染めを体験できるワークショップでのハンコックスさんの様子(新型コロナウイルス感染症による制限の前の写真。)

「AiAii」の建物は、築50年の家屋をリノベーションしたものだ。外壁は壁画アートで、ハンコックスさんが、藍染を思わせるブルーに彩られた植物の葉を描いた。店内には、彼女が夫と作った藍染の衣料や小物類の商品が並ぶ。彼女の藍染の商品は、布を折りたたんだり、縛って染色する日本の伝統技法「絞り染め」で、独特の模様が作り上げられている。

洲本市の地域おこし協力隊の活動として、ハンコックスさんが描いた商業施設の階段

ハンコックスさんは、AiAiiをオープンする1年程前から藍染の材料として、それまで使っていた化学染料の替わりに、日本の伝統製法で作られた天然染料「すくも」を徐々に使い始めた。すくもとは、藍の葉を発酵させた染料である。ハンコックスさんは、大鳴門橋でつながる藍染の本場の徳島県からすくもを取り寄せ、工房内で灰汁などを加えて天然の染液を作っている。(Highlighting Japan 2020年10月号「自然の色で染める」参照)

現在、ハンコックスさんは、SNSを通じた情報発信などを通じて、洲本市の魅力を国内外に伝える活動を行うほか、「AiAii」では、藍染の体験講座も開いている。「体験講座の参加者には、染め直すために自分の古着を持ってくることを勧めています」とハンコックスさんは語る。「環境のためでもあるし、新たな価値と美も創り出します。ファッションは使い捨てすべきではないのです」

天然染料の「すくも」のベースとなる発酵中の藍の葉

今年(2021年)の春には、洲本市内に借りた畑に藍の栽培から始めることとし、種を蒔き、夏の終わりに葉を収穫することができた。「簡単な挑戦ではないと分かっているけれど、自分たちの手で育てた藍の葉で、すくもを作ってみたいのです」とハンコックスさんは語った。二人が初めて収穫した藍の葉で作っているすくもは、現在発酵中だ。

「すくも」で染液を作るハンコックスさん(右)と夫の岡田淳一さん

時間や手間をかけても、洲本で育った藍が染める「洲本のブルー」で生地を創作することが、今の彼女の夢だ。