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April 2022

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尺八の魅力を世界に広げる

  • イタリア・ミラノでのリサイタルにて室内楽のグループのmdi ensembleと共演する黒田鈴尊さん(左)
  • ブラジルのロンドリーナで現地の太鼓グループの一心太鼓と黒田鈴尊さん(中央)
  • 尺八奏者の黒田鈴尊さん
  • 黒田鈴尊さんと現地太鼓グループの一心太鼓との共演を報じたブラジルのロンドリーナの現地紙
  • ブラジル・クリチバ移民祭りでの独演会
尺八奏者の黒田鈴尊さん

尺八奏者の黒田鈴尊(くろだ れいそん)さんは、2019年、文化交流使として、2か月間にわたり6か国を訪れ、尺八の魅力を伝えた。

イタリア・ミラノでのリサイタルにて室内楽のグループのmdi ensembleと共演する黒田鈴尊さん(左)

尺八は、リコーダーのように縦に持つ、日本の伝統的木管楽器である。その音色は、楽器上部の歌口(うたぐち)と呼ばれる穴から息を吹き込み、前面に4つ、背面に1つ空いた穴を指で押さえたり、離したりすることで出される。通常、尺八は竹の根元から約54センチメートルの長さに切って作られる。

日本で尺八は、時代劇のバックミュージックや民謡の伴奏としてよく使われてきた。そのためしばしば、土俗的で古臭い楽器と見なされてきた。しかし、尺八奏者の黒田鈴尊さんは、その「ステレオタイプな尺八のイメージを変え、尺八は昔の音楽を奏でる古典的な楽器なのではなく、21世紀を生きる私たちの隣にある楽器なのだと、全世界の人に伝えていきたい」と言う。

黒田さんによれば、この約半世紀で尺八愛好者が世界中に広がったと言う。1994年に日本の岡山県で始まった「ワールド尺八フェスティバル」は約4年ごとに世界各地で開催され、これまでにアメリカのボルダーやニューヨーク、オーストラリアのシドニーやイギリスのロンドンなどで開かれてきた。

このように尺八が世界に知られるようになった一つの大きなきっかけは、日本の現代音楽の作曲家、武満徹(たけみつ とおる)の『ノヴェンバー・ステップス』に負うところが、非常に大きいと言われている。武満氏が1967年に作曲した琵琶*、尺八とオーケストラのための曲で、ニューヨークで小澤征爾氏の指揮によって、ニューヨーク・フィルハーモニックが初演した。その際、偉大な奏者・横山勝也が尺八を演奏している。

黒田さんも「この曲に出合っていなければ、私は尺八奏者の道を選んでなかったと思います。いつか私も『ノヴェンバー・ステップス』のように、世界の人々を魅了するような尺八の名曲を自分でも作って演奏したいです」と話す。

その黒田さんは、2019年に文化交流使に指名され、2か月間にわたり中国、イタリア、ブラジル、フランス、ドイツ、ポルトガルを訪問し、講義やワークショップを含む約 34 回の公演を行った。

イタリアのミラノでは、世界的に活躍する室内楽のグループ「mdi ensemble」と共演し、モーツァルトの「フルート四重奏」のフルートパートを尺八で演奏した。訪問先で演奏する楽曲を、日本人の若手作曲家の木村恵理香さんに「フルート四重奏」と同じ編成で作曲を依頼した。また同じく日本の若手作曲家でミラノ音楽院に在学中の浦部雪さんにも演奏曲の作曲を委嘱した。若手の作曲家に曲作りを依頼したのは、古典楽器に分類される尺八が、今の時代にも活躍できる現代楽器でもあることを彼女たちに伝えたかったからだ。

ブラジル・クリチバ移民祭りでの独演会

「ミラノの聴衆は、彼女たちの曲を一音すら聴き漏らすまいと熱心に聴いていました。演奏者と会場との一体感を強く感じることができました」と黒田さんは話す。

ドイツのベルリンでは、満員の客席の前で演奏した。演奏が終わると客席から「ブラボー」と歓声が沸き起こり指笛が鳴り響いた。その反響に黒田さんは、未知のジャンルの音楽や楽器の音色を純粋に楽しみたいという聴衆の姿勢に胸を打たれるとともに、尺八が現代に生きる人々の間で共感できる楽器として、海外の人々に受け入れられたと感じ、心底嬉しかったという。

ブラジルのサンパウロでは、ショーロやバイヨン(ブラジルの楽器演奏によるポピュラーミュージック)の演奏者たちと共演した。黒田さんはボサノバを尺八で吹き、現地の演奏者とそれぞれの楽器でコミュニケーションを交わした。同国のクリチバでは、アリーナ級の広さの会場で独奏会を行い、ロンドリーナでは日本の高知県の祭り音楽である「よさこい鳴子踊り」を現地の太鼓グループ「一心太鼓」と共演したり、日本の童謡曲を独奏したりした。ここでも、聴衆から大喝采を浴びた。

ブラジルのロンドリーナで現地の太鼓グループの一心太鼓と黒田鈴尊さん(中央)
黒田鈴尊さんと現地太鼓グループの一心太鼓との共演を報じたブラジルのロンドリーナの現地紙

文化交流使としての経験は、黒田さんの音楽キャリアに大きな影響を与えた。「世界の人々の心にも響く楽器として、尺八の可能性をもっと広げるために、新たな楽曲作りや、様々な人々との共演に挑戦する意を強くました」と黒田さんは話す。

* 日本の伝統的な楽器の一つで、中国、更に古くは西アジアにルーツを持つとされ、ヨーロッパの古楽器・リュートと形が似ている。Highlighting Japan 2021年8月号参照:https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202108/202108_11_jp.html