Skip to Content

May 2022

Language

工業製品に漆を塗る技術

  • 漆塗りの釣竿
  • 筐体が漆塗りのCDプレーヤー
  • レーガン大統領就任を記念してホワイトハウスに贈るために、パーカー・ペン社から製作を依頼された台座が漆塗りのペンスタンド
  • 持ち手部分に漆が塗られているカトラリー
  • 和紙と蒔絵(プラチナの箔と粉を使用)を使った時計
  • ボディーとロゴが漆塗りのデジタル一眼レフカメラ
  • ハウジングカバーが漆塗りのヘッドホン
  • ウイスキーの漆塗りボトル

    各写真は、この記事に関連する単なる例示の写真であり、当該ブランドや製品を推奨するものではありません。
漆塗りの釣竿

福島県会津若松市(あいずわかまつし)の企業は、漆を、カメラや時計あるいは自動車部品といった様々な製品に塗る技術を開発し、その用途を広げている。

レーガン大統領就任を記念してホワイトハウスに贈るために、パーカー・ペン社から製作を依頼された台座が漆塗りのペンスタンド

伝統的に漆は、食器や家具などの木製の工芸品に使われてきた。木地(きじ)と呼ばれる白木のままの素材に塗っていくのが一般的だ。ところが、東北地方、福島県の会津若松市の坂本乙造商店(さかもとおとぞうしょうてん)は、技術開発を進め、漆の用途を様々な素材の工業製品に広げることに挑戦し、それを実現してきた。

会津若松は400年以上も前から“会津塗”と呼ばれる漆器作りが盛んな土地で、同社は1900年、会津塗用の漆を精製する事業で創業した。1978年に三代目の社長となった坂本朝夫(さかもと あさお)さんは、時代に合った独自の技術を開発する経営方針をとった。

持ち手部分に漆が塗られているカトラリー

「私が社長になったころ、日本は高度成長期で、プラスチックなどを使用した工場で大量に生産する日用品が普及して、伝統的な漆器産業はすでに低迷期に入っていました。そこで私は、耐久性、耐水性、断熱性、防腐性が非常に高く、見た目も美しい、優れた天然塗料としての漆を生かすために、工業化の流れに乗ることを決めたのです」と坂本さんは語る。

和紙と蒔絵(プラチナの箔と粉を使用)を使った時計

そこで、同社は、船底の防錆剤や建物の補強剤、スピーカーから生じる音質の向上など、漆を工業製品へ応用するための技術開発に取り組んだ。1982年に、パーカー・ペン社からレーガン・アメリカ合衆国大統領就任を記念してホワイトハウスに贈呈するペンスタンド2000台の発注が舞い込んだ。坂本さんは、地元の一流の職人に依頼して手作業の漆塗りによる製品を納入したが、何と、塗装に「色むらがあり、品質にばらつきがある」と全て返品された。坂本さんは、画一的な仕上がりでないと工業製品としては、評価されないことを理解した。そこで、スプレーを用いて均一に漆を吹き付ける独自の技法を開発することで問題を解決、一年後に全ての製品の再納品を果たした上に、「美しい」と評価を受けた。この経験で、坂本さんは、「伝統工芸品のよさと工業製品の評価は違う、工業分野は自前で道を開かなければならない」と決心したという。

ボディーとロゴが漆塗りのデジタル一眼レフカメラ

ペンスタンドが欧米のメーカーの評判を呼び、その後、海外の有名企業から依頼を受けるようになり、更には漆塗装の技術供与を行うようになった。

ハウジングカバーが漆塗りのヘッドホン

そうして、国内外のカメラや時計、オーディオや家電製品、自動車や航空機を製造するメーカーから次々と注文が舞い込むようなった。その漆塗装の技術は、国産高級車のインストパネル(運転席に設けられている計器盤)、飛行機のファーストクラスの内装、カーボン素材の釣り竿などで使われている。それが同社の高い評価となり、2005年の経済産業省の『第1回ものづくり日本大賞』を皮切りに数多くの受賞につながった。

ウイスキーの漆塗りボトル

「私たちが常に心がけてきたのは、伝統にしがみつくのではなく、伝統を現代に活かすことです」と坂本さんは言う。

坂本乙造商店の漆塗装の技術は、現在、ペンダントやハンドバッグといったファッション分野にも用いられ、その輝きを広げている。同社は、漆という天然素材の魅力を基軸に、漆の可能性を追求し続けている。

筐体が漆塗りのCDプレーヤー

各写真は、この記事に関連する単なる例示の写真であり、当該ブランドや製品を推奨するものではありません。