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August 2022

竹工芸作家・藤沼昇

  • 藤沼昇作 束編花籃「五行」(たばねあみはなかご「ごぎょう」)(直径48センチメートル、高さ26センチメートル)
  • 藤沼昇作 網代編盛籃「豊潤」(あじろあみもりかご「ほうじゅん」)(直径42センチメートル、高さ18センチメートル)
  • 藤沼さんの新たに考案した“ひねり”が施された上記作品のクローズアップ
  • 藤沼昇作 根曲竹花籃「春潮」 (ねまがりだけはなかご「しゅんちょう」)(直径72センチメートル、高さ46センチメートル)
  • 工房で竹籠を作る藤沼さん
  • 地元産のタケが置かれた工房での藤沼さん
  • 竹を割って竹ひごを作る
藤沼昇作 束編花籃「五行」(たばねあみはなかご「ごぎょう」)(直径48センチメートル、高さ26センチメートル)

藤沼昇(ふじぬま のぼる)さんは、タケの素材のシンプルさを巧みに生かした作品を制作し、その作品は国内外から高い評価を得ている。

工房で竹籠を作る藤沼さん

竹工芸は、タケを割って削り出した棒状の「竹ひご」を編み込み、柔らかな曲線や鋭い直線を持った作品を作る伝統工芸である。お盆、籠(かご)、お椀など様々な生活の道具に始まり、茶道の道具や華道の花器、さらには現代生活を彩るインテリアを生み出している。竹工芸による数々の製品は民芸品として、そしてアートとして内外でその価値が認められている。

良質な竹の産地であり、多くの優れた竹工芸作家を輩出してきた栃木県大田原市(おおたわらし)に1945年に生まれた藤沼昇さんは、現代日本を代表する竹工芸作家であり、日本政府から重要無形文化財保持者(人間国宝)に指定されている。

藤沼昇作 網代編盛籃「豊潤」(あじろあみもりかご「ほうじゅん」)(直径42センチメートル、高さ18センチメートル)

藤沼さんが竹工芸の道に進んだきっかけは、27歳の時に初めての海外旅行で訪れたフランスのパリの街で、かの地の人々が、自らの石の文化を代表する、シャンゼリゼ通り、凱旋門(がいせんもん)、ルーブル美術館、ナポレオン時代の遺産などを大切にし、誇る姿に触れたことだった。藤沼さんは、日本にも素晴らしい文化があるという思いがこみ上げたが、当時はそれを示す術がなかった。

帰国後、藤沼さんは日本の伝統文化を学び始め、書道や版画、竹工芸など様々な工芸教室に通うようになった。そんなある日のこと、行きつけの本屋の店員が藤沼さんに一冊の本を差し出した。1967年重要無形文化財保持者として指定された生野祥雲斎(しょうの しょううんさい。1904〜1974)の作品集だった。

藤沼昇作 根曲竹花籃「春潮」 (ねまがりだけはなかご「しゅんちょう」)(直径72センチメートル、高さ46センチメートル)

「その本を見た時、タケと人間が作り上げる“芸術”としての竹工芸作品に衝撃を受けました。そこで、竹工芸師に弟子入りして本格的に技術を学び始めました。私は手先が器用だったので1年ほどですべて習得し、それ以降は作品集の写真を見ながら独学を続けました」と藤沼昇さんは言う。

独学には強い刺激とモチベーションが欠かせない。藤沼さんの場合、特に1日に60から70センチメートルほど成長するタケの力強い生命力が、作品づくりへの刺激であり、モチベーションになっているという。

地元産のタケが置かれた工房での藤沼さん

藤沼さんは地元大田原産の5種類ほどのタケを使い分けて創作する。藤沼さんの作品は、繊細で温もりを感じる素朴なものから、しなやかで優美なもの、そうかと思えば、雄々しい力強さに溢れる作品まで様々である。いずれもタケの素材が余すことなく生かされている。

「1992年のある日のこと、伝統的な束編(たばねあみ)技法*で作品を作っているとき、ひょんなことから竹ひごの束をひねってしまったのですが、意外な効果に気が付いたのです。この“ひねり”を私のオリジナル技法として作品に応用しようと決めたのです」と藤沼さんは言う。

藤沼さんの新たに考案した“ひねり”が施された上記作品のクローズアップ

以来、タケの生命力を象徴する強靭さと素材の繊細さを強く認識し、この相反する要素を同時に表現することを創作テーマに掲げるようになった。

藤沼さんの作品は内外で高く評価され、その作品の大半は海外で展示されているという。米国のメトロポリタン美術館やシカゴ美術館、また、英国の大英博物館などが藤沼さんの作品をコレクションに加えている。

竹を割って竹ひごを作る

タケの性質を知りぬく藤沼さんは、大田原に自生するタケを選り抜き芸術作品に仕上げる。その作品は、タケという伝統的な素材を用いながらも現代的な空間にもマッチし、世界の人々に訴える力を持っている。

* 何百もの細い竹ひごを束ね、編んで形を作る技法