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August 2022

竹による巨大なインスタレーションを制作する工芸家

  • アメリカのロサンゼルスのジャパンハウスに展示されている「LIFE CYCLES」 (47メートル×11.6メートル×4メートル)
  • トルコのエスキシェヒル市のオドゥンパザル近代美術館に展示されている「CONNECTION-GODAI」(8メートル x 5メートル x 8メートル)
  • 四代田辺竹雲斎さん
  • 「LIFE CYCLES」に使われている技術「亀甲編み(きっこうあみ)」のクローズアップ
  • 舟形花籃 高帆 (ふながたはなかご たかほ) (60.5センチメートル×26.5センチメートル×28センチメートル)
アメリカのロサンゼルスのジャパンハウスに展示されている「LIFE CYCLES」 (47メートル×11.6メートル×4メートル)

竹工芸家の四代田辺竹雲斎(たなべ ちくうんさい)さんは、竹を使った巨大な現代アート作品を国内外で制作し、竹の素晴らしさを伝えるとともに、新たな可能性を追求し続けている。

四代田辺竹雲斎さん

アメリカのロサンゼルスのジャパンハウス*では、2022年7月28日から2023年1月15日まで、竹工芸家である四代田辺竹雲斎さんの展覧会「LIFE CYCLES | A Bamboo Exploration with Tanabe Chikuunsai IV」が開催されている。竹を使った繊細な工芸品の他、田辺さんと4人の弟子が会場で約3週間をかけ、手作業によって完成させた巨大なインスタレーション**「LIFE CYCLES」が展示されている。それは、竜巻のようにうねりながら壁から壁へと伸びる、約11,000本の竹ひごで編まれた長さ47メートル余りの構造体でできており、躍動感とエネルギーにあふれ、見る人を圧倒する。

「インスタレーションは、その時に自分が感じでいることを弟子と共有しながら、作り上げていきます。そうすることで “生きた”アート作品となります」と田辺さんは話す。「国内外で50ぐらい作ってきましたが、今回の作品が最も完成度が高いと感じています」

トルコのエスキシェヒル市のオドゥンパザル近代美術館に展示されている「CONNECTION-GODAI」(8メートル x 5メートル x 8メートル)

田辺さんは、大阪府堺市で約120年続く竹工芸家の4代目。東京芸術大学美術学部彫刻科卒業後、大分県別府市の竹工芸訓練支援センターで2年間、竹工芸の技術を学んだ。その後、父、三代田辺竹雲斎のもとでさらに技術を磨いた。

竹工芸家となった田辺さんは、編み目が六角形となる「亀甲編み(きっこうあみ)」など、代々受け継がれてきた技術を活かしつつ、現代的なデザインの竹工芸品やアート作品を発表してきた。そうした作品は、徐々に海外でも注目を集め、2001年にアメリカのフィラデルフィア美術館クラフトショーに出品した作品は同美術館が購入して所蔵作品となった。それ以降、ボストン美術館や、英国の大英博物館などでも展覧会を開催、海外の美術館やアートコレクターによる作品の購入が増えていった。

「LIFE CYCLES」に使われている技術「亀甲編み(きっこうあみ)」のクローズアップ

国内外での活動を広げる中、田辺さんが制作を始めたのがインスタレーションであった。2012年に大阪の美術館で最初の作品を展示して以降、アメリカ、フランス、ブラジル、トルコなどで作品を制作している。

「竹は、力強さとともに、しなやかさ、清廉さを合わせ持つ素材です。大規模な現代アート作品を作ることによって、そうした竹の素晴らしさをもっと多くの人に伝えられるのではと考えたのです」と田辺さんは話す。「うれしいことに、私のインスタレーションは国籍や年齢を問わず、多くの人に楽しんでいただいています。ジャパンハウスでは、制作過程を公開していましたが、とても熱心に見学する小学生もいました」

田辺さんは、展覧会後に作品を解体した竹ひごを、次の作品に再利用している。亀甲編みで編まれた作品は非常に堅固な作りであるが、接着剤が全く使われていないので、容易に解(ほど)くことができる。作品を作るごとに、1割ほどの竹ひごが劣化し、折れてしまうが、その度に新しい竹ひごを加えて作品が作られる。

舟形花籃 高帆 (ふながたはなかご たかほ) (60.5センチメートル×26.5センチメートル×28センチメートル)

「自然素材だからこそできる、持続可能なアートです」と田辺さんは話す。「2023年1月、ジャパンハウスで作品を解体するときには、地元の人にも協力していただく予定です。アメリカの人々によって解かれた竹ひごが、次の国で作品となり、また、その国の人によって解かれます。そうしたつながりを作れることも、このインスタレーションの魅力です」

田辺さんの作品には、竹に関わる日本の産業や伝統を守りたいという強い願いも込められている。現在、日本では竹の需要減少に伴い、竹林の整備に当たる人々の高齢化も進んでいる。田辺さんは、制作を通じて、竹の需要喚起、雇用創出など、竹林の持続的な保全と利用へとつなげていきたい考えだ。また、インスタレーション制作を通して、弟子、そして、その次の世代へと竹工芸技術を伝えてようとしている。

「今は、作品の高さが最大でも12メートルぐらいですが、今後は新たな技術も使い、より多くの人と協力しながら、高さ20メートルを超えるような、もっと大きな作品を作りたいです」と田辺さんは話す。

竹工芸の伝統を守りながら、革新的な作品を生み出すことによって、田辺さんは、新たな竹の可能性を追求している。

* Highlighting Japan 2018年6月号「日本への共感・理解・支持を広げる発信拠点『JAPAN HOUSE』参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/201806/201806_09_jp.html
** インスタレーションは、特定の空間に物や装置を置いて、その全体を芸術作品として表現する現代美術の手法