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December 2022

落語の魅力をフランス語圏に発信

  • フランス語圏のカナダ・モントリオールで公演するコピーニさん
  • 扇子を「箸」に見立てて落語を演じるシリル・コピーニさん
  • ポーズを決めるコピーニさん
扇子を「箸」に見立てて落語を演じるシリル・コピーニさん

フランス出身のシリル・コピーニさんは、自らの落語の演技と落語に関連する作品の翻訳を通じて、落語の魅力を日本とフランス語圏の観客と読者へ伝えている。

フランス語圏のカナダ・モントリオールで公演するコピーニさん

「落語」は、17世紀中頃の日本で成立した伝統的な話芸だ。何代にも渡って語り継がれてきた古典落語や、現代の落語家による創作落語など、今日にもたくさんの演目があるが、いずれの噺(はなし)も庶民の滑稽噺(こっけいばなし)や人情噺が繰り広げられる。落語のもう一つの特徴は、衣装や舞台美術に頼ることなく、座布団の上で正座をしたままの着物姿の話者が一人で何人もの役柄を、声色や身振りだけで登場人物の違いをつけながら演じるところにある。

フランス出身のシリル・コピーニさんは、落語家として、日本とフランスを中心に活躍を続けている。「落語は『小さな動きで大きな世界を表現する』と言われます。小道具として使うのは扇子と手ぬぐいのみで、これを様々なものに見立てて、観客の想像力に訴えます。そうした、演者と客の間の約束で成立するところが、落語の一番の魅力ですね」とコピーニさんは語る。

コピーニさんが通った南フランスのニースの高校では、日本語の選択授業があった。履修してみたところ、コピーニさんはその面白さにひかれ、大学は日本語の専攻に進学し、フランス国立東洋言語文化研究所(INALCO)で言語学・日本近代文学の修士号を修めた。このときの研究対象だった小説家のエッセイにしばしば「落語」が登場した。「しかし、インターネットも普及していない時代ですから、実際の落語がどういうものか、ずっと興味を持っていました」とコピーニさんは言う。

コピーニさんは、1997年に在日フランス大使館付属文化センター「アンスティチュ・フランセ」に就職。東京で、念願だった大衆芸能が演じられる劇場である「寄席」(よせ)に足を運んで落語を初めて観て、感激したと言う。その後、フランスと日本の文化交流の仕事に従事する中で、上方落語(かみがたらくご)(東京の「江戸落語」に対して京都や大阪で発展した落語)の林家染太(はやしや そめた)さんと出会い、2010年から落語の手ほどきを受けることとなった。2011年には、落語国際大会in千葉で「尻流複写二(シリルコピーニ)」の芸名で演じ、入賞した。2016年からは毎年、コピーニさん自ら、魅力を損なわないよう工夫を凝らしてフランス語に訳した落語で、フランスにおいて落語を演じるツアーを行っている。

ポーズを決めるコピーニさん

コピーニさんが得意としている演目は、架空の食べ物を食べたことがあると見栄をはる男の話が滑稽な「ちりとてちん」、森で救ってくれた男に恩返しをしようとする子狸と男の掛け合いが可愛らしい「狸賽」(たぬさい)など。「フランス公演では、よく『死神』もやります。借金で首が回らなくなった男を死神が助けるところから展開していく噺です。『死神』は通常、興行の最後に落語の名人がするような噺です。ですが、実はこの噺はグリム童話がもとになっていて西洋の人々にも馴染みがある。それに噺に合わせて照明を落とす演出も相まって、フランスの観客を引き込むことができます」とコピーニさんは言う。

また、コピーニさんは、日本の漫画をフランス語へと翻訳することも手掛けている。手掛けた訳本の中でもコピーニさんのお気に入りの作品の一つが、雲田はるこ作『昭和元禄落語心中(しょうわげんろくらくごしんじゅう)』。1930年代から70年代頃の日本の落語の世界を舞台にしており、主人公が落語「死神」を聞いて感動するシーンから物語が始まって展開していく話だ。

「落語を題材にした面白い漫画は他にもいくつかあります。まずはそこから知ってもらうのも良いですね。落語は人を傷つけない優しい笑いの文化。世界を救う力があると思います」とコピーニさん。いつか、落語を学べるような集中講座をフランスで開催し、その奥深さをもっと広めたいとコピーニさんは考えている。