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January 2023

忍野八海:世界遺産の八つの池

  • 菖蒲池(マップ❽)
  • 銚子池(マップ❹)
  • 鏡池(マップ❼)
  • 湧池(マップ❺)
  • お釜池(マップ❷)
  • 忍野八海近くの日本家屋と富士山
  • 忍野八海のマップ ❶出口池 ※至出口池(徒歩10分) ❷お釜池 ❸底抜池 ❹銚子池 ❺湧池 ❻濁池 ❼鏡池 ❽菖蒲池
菖蒲池(マップ❽)

世界遺産「富士山」の構成資産であり、日本の原風景とも言われる忍野八海(おしのはっかい)と呼ばれる八つの池は、富士山の伏流水(ふくりゅうすい)がもたらした美しさをたたえている。

忍野八海のマップ ❶出口池 ※至出口池(徒歩10分) ❷お釜池 ❸底抜池 ❹銚子池 ❺湧池 ❻濁池 ❼鏡池 ❽菖蒲池

山梨県忍野(おしの)村は、富士山の北東麓に広がる人口9700人ほどの小さな村である。ここには富士山に端を発する清冽な伏流水が湧く八つの池があり、忍野八海と呼ばれている。この池の湧き水は古くから地元の人々が飲料水や生活用水、農業用水などに利用してきた。

銚子池(マップ❹)

忍野八海は1934年に国の天然記念物に指定され、1985年には現在の環境省の名水百選にも選ばれている。そして、そのすべてが世界遺産「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産に登録されている。それぞれの池の名前は、出口池、お釜池、底抜(そこなし)池、銚子池、湧池(わくいけ)、濁池(にごりいけ)、鏡池、菖蒲池である。

鏡池(マップ❼)

地元の人々の日常生活を支えるだけでなく、忍野八海は富士山への信仰とも結びついている。富士山登拝を目指す富士講(参照)の人々は、登る前に池の水を浴びて、人々は心身を浄(きよ)めたと言われている。また、それぞれの池には言い伝えもある。例えば、鏡池の水には物事の善悪を見分ける霊力があると伝えられており、昔、住民同士で揉め事が起きた時、争っている双方が池の水を浴びて、争いが収まることを祈願したともいう。

湧池(マップ❺)

忍野村観光案内所でガイドを務める日西修(ひにし おさむ)さんは忍野八海の成り立ちを説明する。「富士山には大量の雨や雪が降りますが、その山体には川が一本も流れていません。山肌が水を通しやすい火山噴出物や溶岩流で覆われているため、雨水はすぐに地中に染み込んでしまうのです。富士山からの伏流水は長い歳月をかけて地下の透水層で濾過され、やがて山裾のあちこちから地表に湧き出します。忍野八海もその一つで、ここに湧く水は、富士山に二十数年前に降った雨や雪解け水だと分析されています」

お釜池(マップ❷)

忍野八海を訪れた人々がまず驚くのは水の透明度が高いことである。深い池の底までくっきりと見えるため、水中を泳ぐ、地元の人々が大切に育成、保護している様々な種類の魚はまるで空中を浮遊しているかのように目に映る。

「忍野八海から流れ出た水は、神奈川県内を流れ下って太平洋へと注いでいます。その途中には1887年に供給を開始した日本初の近代水道『横浜水道』の取水地がありました。横浜水道から引かれた横浜港の水は、当時横浜港に寄港した船乗りに賞賛され、『赤道を越えても腐らない』という評判を得たそうです」と日西さんは言う。

忍野八海近くの日本家屋と富士山

忍野八海の清らかな水をたたえる池や、そこから流れ出る小川の周辺には昔ながらの日本家屋が点在し、その背後には左右対称の大きな裾野を広げる富士山がそびえ立っている。あたかも、何百年も前の日本に時を戻したかのような風景とも言われる眺めが、国内外からの旅行者を惹(ひ)きつけてやまない。