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February 2023

フユボタン(冬牡丹)の庭

  • 小雪の降る中のボタンとそれらを保護するワラボッチ
  • ボタンとそれらを保護するワラボッチ
  • ワラボッチの覆いの下の赤いフユボタン
  • ピンクのフユボタン
小雪の降る中のボタンとそれらを保護するワラボッチ

ボタンは、一般的には春に花を咲かせるが、1月から2月下旬にかけての冬に咲かせることもできる。東京の北東、台東区に所在する上野東照宮ぼたん苑では、「フユボタン」の華やかな姿を楽しめる。

ボタンとそれらを保護するワラボッチ

ボタン(牡丹)は、中国、北西部を原産地とする落葉低木で、およそ1300年前に日本に伝来した。非常に大きく(10~30センチメートル)、香りの強い花をその小さな株から咲かせることから、中国の唐の時代には「百花の王」とされていた。元々は、その根の樹皮を薬に使うために栽培されていた植物だが、500年ほど前からは観賞用の園芸植物として人気となり、近年は違う形や色の花を作り出すための品種改良により、数多くの品種が開発されている。

「一般的なボタンはハルボタン(春牡丹)といい、4月から5月にかけて花を咲かせます。初冬に花を咲かせる二季咲きの品種もあり、カンボタン(寒牡丹)として知られています」と話すのは上野東照宮ぼたん苑の苑長を務める小野晋吾(おの しんご)さんである。

ワラボッチの覆いの下の赤いフユボタン

「ただし、カンボタンは天候の影響を受けやすく、1本の株に数輪の小ぶりの花を咲かせるだけです。こうした欠点を補うために、新年早々に開花するように開発されたのが、フユボタン(冬牡丹)なのです」と小野さんは言う。そのため、春に咲く品種のボタンを低温で休眠させ、通常の開花時期を8か月ほど遅らせる。ハルボタンと同様、作り出された花は大きく優美な花を咲かせる。この開花を遅らせる技術を使い、自然の花が最も少ない冬の時期に、色鮮やかな花を堪能することが可能になるのだ。

現在の東京の北東、台東区の上野公園の中に鎮座する上野東照宮は、1627年に創建され、江戸幕府(1603年~1867年)の初代将軍・徳川家康公(1542~1616年)を祀っている。ぼたん苑はその境内の一角に作られた回遊式日本庭園で、1980年に日中友好の象徴としてオープンした。4月上旬から5月上旬に開催される「春のぼたん祭」と1月1日から2月下旬までのフユボタンの開花時期に多くの人が訪れ、園内が賑わう。新型コロナウイルスの流行していた、ここ3年(2020年~2022年)も、十分に対策をして実施した。2023年に41回目を迎えたこの「冬ぼたん」祭りでは、日本や中国で生まれた品種を中心に40種160株のボタンが披露されている。

ピンクのフユボタン

「ボタンは寒気にさらされると花や葉が傷んでしまうため、私たちは藁(わら)で作った保護用の『ワラボッチ』でボタンの株を覆っています。これを冷たい雨や風、気温が低下する時には完全にかぶせなければならないため、この時期は天気予報から目が離せないんですよ」と小野さんは言う。

小野さんによると、フユボタンにはこうしたきめ細かな手入れが必要な一方、低い気温のおかげで1か月も花が咲いているという。一方、ハルボタンは開花時期に気温が急上昇することで一斉に花が開き、わずか5日ほどで散ってしまうことがあるという。そういったフユボタンの季節でも、東京に雪が降ることはまれなので、そうした際に雪が積もり、雪に覆われたワラボッチの下に赤やピンク、白や黄色の色鮮やかな大輪の花が咲く光景はとりわけ魅力的だ。

フユボタンの開花早々の年始から、苑内ではロウバイや早咲きの梅も楽しめる。2月になるとまだボタンが咲いている中、シダレウメや早咲きのサクラ、フクジュソウなども咲き始める。まだまだ、寒さが厳しい時期にあっても、春が近づくにつれ、苑内の雰囲気は少しずつ華やかさを増していき、フユボタンに彩りを添えていく変化を感じるのも楽しい。