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February 2023

プラスチックに代わる新素材

  • MAPKAで作られたおもちゃのブロック
  • MAPKAで作られた食品容器
  • 株式会社環境経営総合研究所 (ERI) の代表取締役社長を務める松下敬通さん
  • 紙パウダーとポリオレフィン系樹脂を混ぜ合わせて作られるMAPKA
  • MAPKAで作られたフォークとスプーン
MAPKAで作られたおもちゃのブロック

日本の企業が、紙パウダーを主原料とした、従来のプラスチックの代替となる新たな素材を開発した。環境に優しく、性能にも優れる新素材は、今後、多岐にわたる分野での利用が見込まれている。

MAPKAで作られた食品容器

プラスチック製品は、我々にとって身近な存在だ。しかし、石油でできているプラッチックは燃やされると温室効果ガスが発生し、地球温暖化の一因になる。さらに、海や川に流れ込んだプラスチックは、水質を汚染し、海洋生物の生命を脅かすことから、その対策が国際的な課題となっている*。

そんな状況の中、プラスチックに代わる新素材として大きな注目を集めているのが、東京に本社を置く株式会社環境経営総合研究所(以下:ERI)が開発した紙パウダーを主原料とする『MAPKA』(マプカ)である。MAPKAは、主原料の紙パウダー(重量比で51パーセント以上)とポリオレフィン系樹脂**を混ぜ合わせて作るペレット***だ。紙パウダーは廃棄紙から作るため、紙資源の有効活用になるだけでなく、石油由来原料の使用を大幅に削減する。

「MAPKA開発のベースになったのは、当社が機械部品などの緩衝材として独自に開発した『earth republic』(アースリパブリック)という紙パウダー入りの発泡プラスチック****の製品です」とMAPKAを開発したERIの代表取締役社長を務める松下敬通(まつした たかみち)さんは話す。「このearth republicを量産するには、原料となる紙パウダーを安定して作る技術が欠かせませんでした。しかし、開発当初、20社を超える日本の紙の粉砕機メーカーに試験を依頼したものの、満足のいく結果は得られませんでした。紙を既存の機械で粉砕していくとパウダー状にはならず、綿状になってしまったからです。綿状ですと、プラスチックに紙がうまく混ざらないのです」

株式会社環境経営総合研究所 (ERI) の代表取締役社長を務める松下敬通さん

その後、1年余りも試行錯誤を繰り返していた頃、松下さんは偶然入ったそば屋で、そば粉を挽く石臼を目にする。これをヒントに紙を粉砕するのではなく、「すり潰す」というまったく新たな発想で機械を新設計したところ、25~50ミクロン(1ミクロンは1ミリメートルの1000分の1)の微細な紙パウダーを安定して作り出すことに成功した。

紙パウダーとポリオレフィン系樹脂を混ぜ合わせて作られるMAPKA

ERIは、この紙パウダーを、製紙会社や印刷工場で発生する廃棄紙を原料として作ることで、earth republicは一般的な発泡プラスチックより価格を低く抑えることができた。その上、原料は環境負荷の高い添加剤は使用せず、かつ、天然素材が多く、焼却時に有害ガスは発生しない。

earth republicをつくる技術を更に発展させ、その用途を広げることに成功したのが、MAPKAだ。MAPKAは、紙パウダーとポリオレフィン系樹脂を均一に混ぜ合わせて作られるが、通常のプラスチック材料と同じように、成形材料として様々な形に加工できるのが大きな特徴である。このような特徴を持っているため、MAPKAを材料とした製品を製造するために従来のプラスチック成形設備の取り替えや変更は必要ない。

MAPKAは、強さや軽量性など、従来のプラスチック材料と同等、あるいはそれ以上の性能を持つという。加えて、原料の採取から製造までの段階で温室効果ガスの排出は、従来のプラスチックに比べ35.1パーセントも削減できる。また、製品の廃棄時には可燃ゴミとして処分可能だ。

さらに、MAPKAの製品は、通常のプラスチック製品よりも、より洗練された外観と高品質感を持っており、消費者によるリユースの面からも環境負荷軽減の可能性がある。「MAPKAを使用して最初に作ったのは、食品関係のイベントで使う容器でした。それまで紙容器などは会場でゴミとして捨てられてしまうため、その処理が大きな負担になっていました。ところが、外観に優れるMAPKAの容器はお客さんの大半が家庭に持ち帰ったので、主催者は負担を大幅に減らすことができたのです」と松下さんは言う。

MAPKAで作られたフォークとスプーン

ERIは、独創的なもの作りが高く評価され、「ものづくり日本大賞」や環境省の「COOL CHOICE LEADERS AWARD」など数々の賞を受賞し、松下さん自身も2022年春に日本政府から黄綬褒章を授与された。

優れた環境性能だけでなく、製造コストや品質といった様々な点で従来型プラスチックを上回る性能を持つMAPKAは、これまで需要の大きかった食料容器や生活雑貨ばかりでなく、今後、自動車の部品や内装材、家電の部品、建築資材といった幅広い分野でさらに利用が拡大していくと見込まれている。

* Highlighting Japan 2020年8月号「プラスチックと「賢く」付き合う」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202008/202008_09_jp.html
** ポリオレフィン系樹脂はプラスチック(樹脂)の一種で、日常生活で最も使用される樹脂材料と言われる。主に、ポリ袋、マヨネーズなどのチューブなどに使用されるポリエチレンと、おもちゃやスポーツ用品などに使用されるポリプロピレンとがある。
*** ペレットは、成形品の原料になる、粒の形をしたプラスチック
**** 発泡プラスチックは、小さな気泡が多数含まれているプラスチック