Skip to Content

February 2023

エチオピアで市場志向型農業を支援

  • 農業普及員の支援を受けてベースライン調査を行う農家(左側の列)
  • 作物選定、作付けカレンダーを作成する農家と技術的なアドバイスを行う農業普及員(左)
  • 農家の代表者による市場調査
  • マーケットリンケージフォーラムで情報交換する農家グループの代表と農業資材のサプライヤー(右)
  • 収入が大きく向上したSHEPプロジェクト対象のキャベツ農家
農業普及員の支援を受けてベースライン調査を行う農家(左側の列)

国際協力機構(JICA)は、エチオピア連邦民主共和国において、農家に市場の動向を意識してもらうことで所得向上を図るプロジェクトを実施している。

作物選定、作付けカレンダーを作成する農家と技術的なアドバイスを行う農業普及員(左)

アフリカのエチオピア連邦民主共和国(以下、エチオピア)において、農業はGDPの約40%を占める重要な産業である。農業従事者が人口に占める割合は約80%にのぼる。その多くは平均耕作面積が1ヘクタール未満の小規模農家で、主食となる穀物のテフ、ソルガム*、トウモロコシ、小麦、またジャガイモ、タマネギ、トマトやキャベツなどの野菜を作って生活している。しかし、多くの農家は、市場のニーズ、取引に最適なタイミングを踏まえた栽培管理を十分に行っていないため、所得向上につながっていない。

こうした課題に対応するために、2017年に国際協力機構(JICA)はエチオピア政府と協力し、SHEP (市場志向型農業振興)アプローチの導入による、小規模農家の所得向上を目指すプロジェクトを二つの州でスタートさせた。SHEPはもともと、2006年から開始されたJICAとケニア政府による技術協力プロジェクトで開発された農業普及アプローチの一つである。JICAの支援でSHEPアプローチを導入した国は、現在までにアフリカの約30か国を含め、全世界約60か国に広がっている。

「SHEPアプローチの大きな目的は、農家の意識を、農作物を『作って食べる』(作ってから売り先を探す)から、『売るために作る』(市場のために作る)に変えることです」と、2017年から今年(2023年)1月まで、エチオピアでJICAのSHEPプロジェクトのチーフアドバイザーを務めた佐宗文暁(さそう ふみあき)さんは言う。「そのためにSHEPアプローチでは、『どうやって農業で稼ぐか』を、農家は一連の活動を経て、自分自身で考えるきっかけを作り出すのです」

農家の代表者による市場調査

その鍵となる活動が「ベースライン調査」と「市場調査」である。ベースライン調査では、グループの農家が集まり、栽培作物、作付面積、収量、生産コスト、純利益に関して、現在の営農状況を理解する支援を農業普及員が行う。多くの農家は農作物の生産・販売でどのくらいの損益が出ているのかを正確には把握していないため、この調査が現状を直接的に知るきっかけとなるのだ。その上で、市場調査では、農業普及員と農家の代表者が市場を訪れ、農作物の販売者から、何が一番高く売れる野菜か、買い取り価格はいくらか、どのような種類や品質の農作物であれば買うかといった情報を集める。

「市場調査によって、農家は市場で高く売れる農作物の種類やサイズ、あるいは、そのタイミングといった情報、バイヤーのニーズを知ることができるのです。そして、市場調査の結果を踏まえて、来るべき季節に市場で販売するために作る農作物を、グループの農家全員で議論し、決めるのです」と佐宗さんは言う。「農家のモチベーションを上げるためにも、農家自らが意識を高め、決め、行動するという段階を踏むことが非常に重要です」

調査を踏まえ、栽培する農作物として農家が選ぶのは通常、ニンニク、ジャガイモ、タマネギ、トマト、キャベツ、トウガラシなどである。農家は農業普及員から、栽培方法や作付けのタイミングについて技術指導を受けながら、こうした農作物の栽培を進めていく。

マーケットリンケージフォーラムで情報交換する農家グループの代表と農業資材のサプライヤー(右)

さらに、農家の代表者は、農業資材のサプライヤー(種子、農薬など)、買い付け業者、農産物加工会社、小口の貸し付けを行うマイクロファイナンス機関、協同組合などの関係者が一堂に会する「マーケットリンケージフォーラム」に参加する。このフォーラムは、農家が農業ビジネスの関係者と情報交換やネットワーク構築を行う機会となっており、質の高い種子の購入や販売先の多様化などの成果を生んでいる。

この他、プロジェクトでは様々な研修を通じ、農家をサポートする自治体の担当者や農業普及員の能力向上にも力を入れている。研修で参加者は、対象農作物の基礎的な栽培方法や堆肥づくり、病虫害対策、農業経営改善のための収支に関する記録など実践的な農業技術を学ぶ。

こうしたプロジェクトの取組は、多くの農家の所得向上につながっている。プロジェクト対象農家約1,000人の園芸栽培からの収入をプロジェクト前後で比較したところ、対象農家の園芸栽培からの所得が平均2倍以上に増えていることが明らかになった。新たな所得は、子供の教育費や、家の新築、土地、交通手段であるバイク、灌漑ポンプなどの農業機械の購入などの費用に使われ、農家の生活向上に貢献している。

収入が大きく向上したSHEPプロジェクト対象のキャベツ農家

「エチオピアでSHEPを導入し始めて数年後、ある対象農家さんが私に、栽培作物の多様化や市場調査の重要性について、まるでビジネスマンのように話してくれたのには驚きました。予想以上に農家の意識は変わっていると実感しました」と佐宗さんは言う。「SHEPアプローチに対して半信半疑だった自治体や担当者や農業普及員も、農家の変化を目の当たりにして、SHEPアプローチの効果について深く理解するようになり、今では彼らの、日常の業務の一環として、SHEPアプローチの普及にも取り組んでいます」

JICAは今後エチオピアにおいて、SHEPアプローチを2州から、他の地域へも普及させる支援に力を入れる予定である。SHEPアプローチは、エチオピアの小規模農家の生計向上に大きく貢献していくことだろう。

* テフとソルガムはいずれも、エチオピアで広く作られている穀物。テフとソルガムは通常、同国の主食であるインジャラというクレープ状の食べ物を作るために使う。