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Highlighting JAPAN

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特集伝統と最新技術で守る建築

地震でも揺れないビル(仮訳)

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日本を代表する大手ゼネコンの一つである大林組は、建物の揺れを地面の揺れの1/50に低減する世界初のスーパーアクティブ制震システム『ラピュタ2D』を開発した。松原敏雄がレポートする。

地震から建物を守る方法に「免震」がある。日本で現在普及している免震は、建物の基礎部分と建物の躯体との間に積層ゴムなどの免震装置を挟む方法だ。免震装置が揺れを吸収することで、建物に伝わる揺れが少なくなるのである。

2009年、大手ゼネコンの大林組は世界で初めて、その技術を進化させた方法を開発した。それが、「ラピュタ2D」だ。

その基本原理は、地震の揺れと逆の方向に建物を同じ量だけ瞬時に動かすというものである。地面が右に10cm動くと同時に建物を左に10cm動かすことで、揺れを打ち消してしまうわけだ。従来の免震装置を取り入れたビルの揺れは地面の揺れの1/2〜1/5になると言われているが、ラピュタ2Dを適用したビルの揺れは、地面の1/30〜1/50まで大幅に低減される。

ラピュタ2Dの核となるのは、ビルを支える積層ゴムをコンピュータの指示によって油圧で押したり引いたりするアクチュエーターと呼ばれる装置の働きだ。地震が起こると地盤と建物の二つの揺れをセンサーが感知し、揺れの大きさと方向を瞬時にコンピュータに伝える。新たに開発された高性能のコンピュータが、地盤の動いた距離をリアルタイムで割り出し、アクチュエーターに1/1000秒単位で指示を出す。アクチュエーターは、揺れの発生後0.1秒後には、揺れと反対方向に建物の躯体が動くように、稼働する。

ラピュタ2Dの開発を指揮した大林組技術研究所副所長の勝俣英雄氏は「現在のラピュタ2Dにつながるアイデアは1988年の時点で考えていました。ただ当時はコンピュータの性能が追いつかなかった。ラピュタ2Dが実現したのは、コンピュータの計算速度や精度が大幅に進歩したこととアクチュエーター製造のコストが抑えられるようになったのが大きな要因でもあります」と語る。「さらに、建造物にこれまで以上の免震を求める社会的なニーズの高まりも、ラピュタ2Dの実現を後押ししました」

アクチュエーター製造のコストダウンには、積層ゴムの技術進歩が大きく貢献している。研究開発が進み、現在の積層ゴムは20年前に比べて6倍の柔らかさでもビルを支えられるようになった。ゴムが柔らかくなればこれを動かすアクチュエーターに要求されるパワー容量も少なくて済む。ゴムが6倍の柔らかさになったことでパワー容量は1/6で済むようになり、大きなコストダウンにつながったというわけだ。

世界初搭載となる同社の技術研究所では、計4基のアクチュエーターと16の積層ゴムが配置されている。ビルの重量増にはアクチュエーターと積層ゴムの追加で対応すればいいので、このシステムは基本的にどんな大きさのビルにも導入できる。

3月11日に起きた東日本大震災は、このシステムの安全性の確かさと改良すべき課題を、同時に提示することとなった。東日本大震災では、当初設定していた大きさ以上の揺れが急激に技術研究所を襲ったために安全機構が働き、アクチュエーターの作動そのものをストップしてしまったのだ。その日のうちに揺れの上限の設定値が変更され 、結果として、以後の余震ではすべて瞬時に作動している。その際の揺れの体感は、横揺れが一切なく、縦方向にだけごく微かに動くものだという。

「ラピュタ2Dの開発目的のひとつに、病院にたくさんあるキャスター付きの機器や什器を地震でも動かなくする、というのがありました。従来の免震ビルでこの要求を満たすのは、絶対に不可能だからです」と勝俣氏は言う。

病院、美術館や博物館、精密機器の製造現場など、このラピュタ2Dを必要とする施設は少なくない。さらなるコストダウンへの取り組みが、普及に向けた今後の課題となる。

「現在も建物全体ではなく、免震機構を内蔵した床を新設する部分免震が行われています。この方法であれば最小限のコストで、揺れを抑えたい部分にのみ施工が可能になります」と勝俣氏は語る。

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