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Highlighting JAPAN

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特集伝統と最新技術で守る建築

漆喰ルネサンス(仮訳)

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消石灰や水などの原料を混ぜ合わせて作られる漆喰は5000年以上も前から世界で利用され、日本でも耐火性に優れた建材として城や土蔵等の壁材に幅広く使われてきた。福岡県にある田川産業は、現在この漆喰を新技術で成形することで驚くべき強度を持つ新素材「Limix」の開発に成功し、大きな注目を集めている。その様々な可能性について松原敏雄がレポートする。

「Limix開発のきっかけは『壁材として簡単に使用できる漆喰製のパネルが作れないか』という、あるハウスメーカーさんからの依頼でした。使用に耐え得るだけの充分な強度を薄いパネルに持たせるのは、決して簡単なことではありません。開発はまさに試行錯誤の連続でした」

そう語るのは、自ら陣頭指揮をとって1992年にLimixの開発をスタートさせた田川産業株式会社代表取締役の行平信義氏だ。依頼が入ったのはビニールクロスなどの化学物質を含む建材の普及によってシックハウス症候群が社会問題化していた時期のことで、有害物質を使わず、むしろそれを吸着する効果のある漆喰に白羽の矢が立ったのである。

従来粉状である漆喰は、水と混ぜて練ったうえで壁などに塗り重ねられ、乾燥して空気中の二酸化炭素を吸収することによって固くなっていく。この時内部に無数の微細な穴ができるため、強度的にはどうしても弱くなるのだ。壁材として塗る分には問題ないものの、パネルとしての使用には、規格品のパネル建材として製品化するため強度を上げる必要があった。強度を上げるためには、「水と混ぜて練って使う」という漆喰の基本的な使い方を根本的に見直さなければならなかった。

行平氏が導き出した解決法は、「超高圧真空成形」だった。粉砕石灰石と充分に熟成させた漆喰、そして顔料や自然素材の副材料を企業独自に混合したものを、水も熱も合成樹脂も一切使わずに真空状態にまで脱気しながら超高圧プレスで一気に加圧成形する、という技術である。

2003年に商品化を実現した製品Limixは、不燃性、吸放湿性、臭いの吸着性、天然抗菌性という漆喰ならではの4つの特徴的な機能に加えて、大理石を上回るまでの強度をも併せ持つようになっていた。結果として、Limixは壁材としてだけでなく、床材としても幅広く使えるようになった。製品は基本仕様として40cm角のタイル形状のもので供給され、60cm角のものも間もなく発売予定だ。

この独自の製法は、他にも多くのメリットをLimixにもたらした。金型に紙やガラスなどを敷けばLimixの表面に凹凸模様等の素材の質感が忠実に再現されるため、デザインの自由度がきわめて高くなる。成形後の穴開けや切断も可能だ。また、焼かずに生産されるため、製造時の二酸化炭素排出量は焼成タイルに比べて80%も軽減できるのだ。さらに、自然素材100%からできていることも大きな特徴だ。現在、Limixをはじめとした複数の田川産業製品が、そのまま自然に戻しても安全な素材に対してのみ認められる「cradle to cradle」という権威ある環境認証を、日本企業で唯一取得している。

「例えば、光に反応して臭いを分解する機能を持つ光触媒をLimixの表面にコーティングすると、太陽光に当てることで漆喰本来の臭いを吸着する機能を半永久的に持続させることができます」と行平氏は話す。

こうした卓越した新素材を誕生させたことが高く評価され、Limixは2007年度の『ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞』をはじめ数多くの賞を受賞している。その実績がジャンピングボードとなり、アメリカ、シンガポール、中国、韓国をはじめとする海外進出もすでに始まっている。

1924年に創業して日本最大の漆喰メーカーへと成長してきた田川産業は、このLimixの製品化とともにさらなる飛躍を目指そうとしている。今後の展開について、行平氏はこのように力強く語っている。

「私どものような中堅企業が世界に出るためには、オンリーワンでありナンバーワンとなる技術が欠かせません。Limixはもちろんのこと、日本独自のムラの一切無い漆喰の美しさを海外向けにアレンジして普及させたいと思っています。漆喰の世界No.1ブランドを確立したい。それが一番の目標です」

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