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Highlighting JAPAN

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特集未来をつくる科学技術

宇宙太陽光利用システム(仮訳)

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宇宙太陽光利用システム(SSPS)は、静止軌道上で太陽光を集めてエネルギーを生み出す「宇宙太陽光発電所」だ。2030年代の実用化に向け、日本での研究開発はすでに検討段階から技術的な実証段階へと移行している。世界をリードする革新技術について松原敏雄がレポートする。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発を進めるSSPSは、宇宙空間で得られる太陽光を、地上から約36,000kmの静止軌道上に浮かぶ「宇宙プラント」で収集し、そこで、エネルギーをマイクロ波やレーザー光に変換して、地上の施設へ無線伝送するシステムである。1システムで原子力発電所1基分に相当する100万kW(1GW)の発電量の実現を目指している。

「SSPSには従来の発電方法に比べて複数のメリットがあります」とJAXAの主任開発員の藤田辰人氏は語る。「太陽エネルギーは、大気圏を通過して地上へ到達するまでに、約70%が失われてしまいますが、宇宙では昼夜・天候・季節の別なく、常に安定した太陽エネルギーを獲得できます。地上での太陽光発電と比べると、単位面積当たりの年間利用可能エネルギーは5〜10倍になります。運用時のCO2排出量もゼロであり、環境面でも非常に優れています」

現在SSPSは、2030年代の商用システム運用開始を目標に、マイクロ波方式とレーザー方式の2つのエネルギー伝送方式の研究が並行して進められている。マイクロ波方式の宇宙プラントは直径2〜3km級の「大型反射鏡」2基、「太陽電池パネル」、「マイクロ波発信器」、「送電アンテナ」からなり、太陽電池が生み出した電力をマイクロ波に変換したうえで地上の受電プラントに伝送する。受電プラントの主役は直径2kmの「レクトナ」という平板のアンテナで、ここでマイクロ波は再び電力に変換されることになる。マイクロ波は、地球に送られる時、雲を通過出来るという大きなメリットがあるが、電力→マイクロ波→電力へと変換する際にエネルギーにロスが生じるという欠点がある。

一方レーザー方式の宇宙プラントは「反射鏡」、「レーザーモジュール(レーザー発振システム)」、「伝送システム」からなり、発電のプロセスを経ずに太陽光を直にレーザーに変換して地上の受光プラントに向けて発振する。宇宙プラントの全長は約10kmだ。太陽光を直接レーザーに変換するので、マイクロ波方式のように、エネルギーをロスしないが、マイクロ波とは異なり、雲を通り抜けにくく、地上プラントの上空に雲があるときは受光できない。そのためレーザー方式では、レーザーを光触媒や電気分解を使うことで、燃料電池の燃料となる水素に変換し、蓄積する利用方法が考えられている。

これら2つの方式にはそれぞれ長所と短所があるため、現時点ではどちらを選択することになるかは未定だ。なお、レーザー光やマイクロ波はともにエネルギー密度を拡散させて地上に送られるので、たとえ鳥や飛行機が浴びたとしても何ら安全上の問題はない。地上の施設は、ともに海上への設置を予定している。

「克服すべき課題はいっぱいあります。宇宙への効率的で低コストな輸送方法の構築、宇宙空間でシステムを無人で組み立てるロボット技術、ビームを制御する技術、エネルギー変換ロスの低減、パーツの軽量化などが代表例ですが、最大の課題はいかにして全体の建造コストを下げるかです」と藤田氏は言う。

藤田氏によれば、到達点が10とすれば、現状の開発段階は2や3のレベルだという。現在行っている地上でのマイクロ波とレーザーの送受信実験を経て、今から3年後を目途に、国際宇宙ステーションの日本実験棟である「きぼう」や小型衛星を活用した軌道上実証に着手する予定だ。この実証はさらに国際宇宙ステーションを利用した大型構造物の組み立て実験や、より高出力の送電実験へと進み、2020年頃には実用化に向けた見通しをつけることを目標としている。

「2030年というのはそう遠い話ではありません。ロードマップ上でも、やるべきことはぎっしり詰まっています。でも、なんとか実現にこぎつけたい。それだけ大きな意義のあるプロジェクトだと思っています」と藤田氏は言う。

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