Home > Highlighting JAPAN > Highlighting JAPAN 2012年1月号 > レアメタルの代替材料開発(仮訳)

Highlighting JAPAN

前へ次へ

特集未来をつくる科学技術

レアメタルの代替材料開発(仮訳)

English

ハイブリッド自動車や電気自動車、液晶テレビやパーソナルコンピューター、カメラや携帯機器など、日本が世界の最先端を走る技術の多くに、ジスプロシウムやネオジム、インジウムなどのレアメタルが使われている。しかし、そうしたレアメタルを巡っては近年、安定的な確保が困難になっている。レアメタルの代替材料と使用量低減技術の確立のため2007年から立ち上げられた「稀少金属代替材料開発プロジェクト」の中核に携わる、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の栗原宏明氏に、研究開発の意義と成果について宇野正樹が聞いた。

レアメタルは、日本の産業の基盤を支える資源である。ことに自動車、IT製品などの材料や製造に不可欠な素材とされる。その定義は、1984年に鉱業審議会において「地球上の存在量が稀であるか、技術的、経済的な理由で抽出困難な金属」のうち、特に安定供給の確保が重要なものとして31鉱種が指定されている。

 レアメタルの代表的な例として、ハイブリッド自動車などの高性能モーターに使われる「ジスプロシウム」(Dy)や「ネオジム」(Nd)、液晶テレビ用ガラスパネルの透明電極に必要な「インジウム」(In)、精密ガラスの研磨に使われる「セリウム」(Ce)などがある。

 そんなレアメタル確保のアキレス腱となってきたのが、多くの素材の供給を特定の国に依存してきたことだ。一国依存が高まると、その国が輸出枠を制限すれば、素材不足と価格の高騰を招く。例えば、2010年1月から2011年7月の1.5年で、ジスプロシウムは約23倍に、セリウムは約17倍に高騰している。

 このような状況になることを経済産業省は想定し、2006年に4つの政策を打ち出した。海外資源の確保、リサイクルの推進、代替材料の開発、レアメタルの備蓄である。そのうちの代替材料開発を手がけているのが、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)である。

 経済産業省とNEDOは、2005年から調査を開始し、2007年より「稀少金属代替材料開発プロジェクト」を発足させた。このプロジェクトでは、将来的に供給が懸念されるレアメタルを選定し、それらの代替材料開発と、材料の使用量低減技術の確立の研究・開発を進めている。

 プロジェクトに携わるNEDOの栗原宏明氏は、その内容についてこう語る。

「まずリスク調査を行いリスクの高い元素の選定を行いました。その結果、インジウム、ジスプロシウム、セリウム、テルビウム等の鉱種を選定し、5年間で実用化につながる研究を終えることを目指しています。プロジェクトは、予算の追加や、新たな鉱種の追加など状況変化に応じた対応をとりながら進めています。なかには、2009年に研究が始まり約2年半で成果が出た、セリウムの事例などがでてきています。全体的に見れば、プロジェクトは前倒しで進んでいます」

 セリウムの開発では、研磨剤である酸化セリウムの使用量を半分まで削減することに成功した。従来、液晶TVやハードディスク向けガラスなどを研磨する場合、多孔質のウレタン樹脂の研磨パッドと、酸化セリウム(CeO2)の研磨剤を使用している。今回プロジェクトでは、ウレタン樹脂パッドに比べて研磨効率が2倍以上高いエポキシ樹脂パッドを開発した。

「エポキシ樹脂は、本来は硬い性質を持つので、研磨パッドには向かないと考えられてきました。そこで樹脂の種類や硬度、気泡の量を最適化することで研磨パッドとして使えるようにしたのです」と栗原氏は言う。

さらに、安定的な確保が可能なジルコニア(ZrO2)や三酸化二マンガン(Mn2O3)が、酸化セリウムの代替材料として使えることもわかった。このようにセリウムに関しては、低減と代替の両方の研究・開発が急速に進み、これらの技術は2012年に事業化される見込みだ。

「現在研究室レベルでは、従来の使用量と比べ、インジウムでは45%、ジスプロシウムは40%の削減を達成しています。それらの研究成果を量産レベルの技術としていかに確立していけるかが、今後の我々の課題です」と栗原氏は言う。

「レアメタルの代替・低減技術の確立は、日本の基幹産業の未来を握っています。それは、製品の安定供給という形で、日本のみならず世界にも利益をもたらすはずです」

前へ次へ