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Highlighting JAPAN

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特集世界に広げる「ライフ・イノベーション」

成長戦略としてのライフ・イノベーション(仮訳)

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日本におけるライフ・イノベーションの現状について、東京大学の副学長で、内閣官房医療イノベーション推進室室長も務める松本洋一郎氏にジャパンジャーナルの澤地治が話を聞いた。

──なぜ、ライフ・イノベーションが必要なのでしょうか。

松本洋一郎氏:ライフ・イノベーションの目的は、少子高齢化社会における、経済成長の実現と国民の健康寿命の延伸です。高齢者が生き生きと暮らすことが出来る社会で、かつ、経済的にも成り立つ医療システムを成り立たせるためにはライフ・イノベーションによる経済成長が不可欠なのです。政府は、ライフ・イノベーションによって、2020年までに新規市場約50兆円、新規雇用284万人を創出する目標を掲げています。そして、ライフ・イノベーションを実現するために、革新的な医薬品、再生医療等の先端医療技術、ものづくり技術を活かした医療・介護ロボットの研究開発・実用化の促進に重点を置いています。

──ライフ・イノベーションを推進するために、どのような政策が実施されているのでしょうか。

例えば、2010年から始まった「最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)」です。プログラムの総額は1000億円で、5年にわたって、30の研究課題に配分されます。このうち、再生医療、がん治療などライフサイエンスの分野は、12の研究課題が選ばれています。いずれの研究課題もライフ・イノベーションに大きく貢献すると考えていますが、特に、東京大学の片岡一則教授が開発した「高分子ミセル」は、がんの画期的な治療方法として、非常に期待出来ます。

また、東日本大震災で被害を受けた東北地方の医療復興のために、東北大学が中心となって進める「東北メディカル・メガバンク構想」もスタートしています。この計画の柱の一つは、被災地住民の同意の下に収集された生体試料と健康調査の情報を集約するバイオバンクの構築です。バイオバンクの情報を分析することで、病気が遺伝や生活習慣とどのような関係にあるかを解明することが出来るのです。

その他、「新成長戦略」に盛り込まれた「リーデイング大学院」構想の一環として、東京大学は、今年、ライフ・イノベーションを先導するリーダーを養成するために「ライフ・イノベーション・リーディング大学院」を設立しました。ここでは、医学、工学、薬学、理学の幅広い知識を持ち、国内外で活躍できるリーダーを育てるための教育カリキュラムを構築しています。

──日本は高齢社会が加速化していますが、どのような取り組みが必要とお考えでしょうか。

一つは先制医療です。先制医療とは、病気が発症する前に、発症を予測・診断して、治療を行い、発症を防止ないしは遅らせる医療です。例えば、アルツハイマー型認知症の発症を、先制医療によって2年間遅らせると、医療・介護費が5000億円削減されるという試算もあります。

また、こうした先制医療を実現するためにも、一人一人の健康診断の情報、遺伝情報、診療情報などの情報を一元的に集約する「パーソナル・ヘルス・レコード」を構築する必要があります。そのために、厳格な情報保護措置をとった上で、マイナンバー制の医療情報への活用が厚生労働省のワーキンググループで検討されています。

──日本がライフ・イノベーションを通じて、国際的に果たすべき役割は何でしょうか。

日本は国民皆保険制度の下、全ての国民は何らかの公的医療保険に加入しています。そして、世界最高の平均寿命を実現し、世界的に見ても、低額な医療費で、非常に水準の高い平均医療を達成しています。しかし、少子高齢化が進む中で、さらに先進的な医療を実現すると同時に、財政的にも持続可能な医療システムを構築することが日本にとって、今後の大きな課題です。こうした医療システムが実現できれば、それを国外に展開することで、世界の人々の健康的な生活に貢献できると思います。

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