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Highlighting JAPAN

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日本の夏

蚊帳でマラリア予防(仮訳)

住友化学のオリセット®ネット



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「蚊帳」は、かつては日本の夏の風物詩としてどの家庭でも使われていた。蚊帳とは、蚊や害虫から人を守るための網のことだが、エアコンのなかった時代には、蚊帳は夏の夜に不可欠な存在だった。日本人でも若い世代では馴染みが薄くなってきてしまっているが、今、日本で生まれた蚊帳がアフリカの子どもたちを救っている。

ハマダラカという蚊を媒介して発症する感染症マラリアは、現在も亜熱帯・熱帯地域の世界100カ国以上で見られ、世界保健機関(WHO)の『World Malaria Report 2013』によると、2010年には世界で約2億人(年間)が発症。約66万人を死に至らしめているという。そのほとんどはサハラ以南アフリカの5歳未満の子どもたちだ。

マラリアは子どもたちの命を奪うだけでなく、就業や教育の機会を打ち砕き、社会経済的な負担も増加する。結果として貧困を助長しているという現実がある。マラリアの撲滅は、アフリカの貧困対策とも深い関わりがあるのだ。

こうしたアフリカにおける問題に、住友化学のひとりの研究者が着目した。そして、「自社の技術を使ってマラリア対策ができないか」と問い、開発されたのが「オリセット®ネット」だ。

オリセット®ネットは、耐久性の高いポリエチレン製の糸にピレスロイドという防虫剤を練り込んで作った蚊帳。従来使われてきた蚊帳は薬液に浸して使用するもので、洗濯をすれば薬効がなくなってしまい長期間使うことはできない。ところが、オリセット®ネットは「コントロール・リリース」という技術により徐々に薬剤が染み出すようになっており、繰り返し洗濯をしても防虫効果がなくなることはなく、実際5年以上使うことができる。

ベースとなっているのは日本の工場で使う防虫網戸用の技術で、住友化学が得意とする「樹脂加工」と「殺虫剤」の組み合わせによって開発された。

さらに、アフリカなど熱帯地方で使うことを考慮して、できる限り通気性を高め、そのため蚊の侵入を防ぐように網目の形状を工夫する必要があった。

2001年には、WHOから世界で初めて長期残効型蚊帳としての効果が認められ、マラリア対策としてオリセット®ネットを使用するよう推奨された。今ではマラリアに苦しむアフリカ、東南アジアなどの80以上の国々で使用されている。

その効果の検証を行ったケニアの村では、オリセット®ネットを使用したことにより、2005年には50%だったマラリア原虫保有者の割合が2008年には8%まで減少したとのデータもある。

当初はUNICEF(国連児童基金)などの国際機関を通じて寄付・配布してきたが、2003年にタンザニアのメーカーA to Z社に製造技術を無償で供与し、アフリカでの現地生産をスタート(2005年には合弁会社ベクターヘルス社を設立)。タンザニアだけで約3000万張り近い生産能力を実現し、約7000人の雇用を創成した。

2011年10月には、ケニアのスーパーマーケットでの一般販売(商標名:オリセット®クラシック)を始めた。これは販路を増やして市場を開発すると同時に、そこに住む人々の予防意識を高める目的もある。また、住友化学ではオリセット®ネット事業の売上げの一部を使い、アフリカで学校を設立するなどの教育支援も行っている。

目指すのはマラリアの撲滅だが、そのためには息の長い支援が必要となる。蚊帳を通じた支援は、命を救うという直接的な効果とともに、教育や市場開拓など、持続的な社会貢献のあり方を示すことにも役立つだろう。



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