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科学と技術

義足で世界記録を目指す(仮訳)

義足の研究開発を行う遠藤謙氏は、2020年東京パラリンピックの100m走で義足のランナーが東京オリンピック金メダリストの記録を抜くことを目標に掲げる。

病気や事故などで失われた下肢に装着し、脚の代わりをする義足。薄いカーボン素材を曲げるようにして作られた「板バネ」と呼ばれる競技用義足は、反発力が高く、飛び跳ねるように速く走ることができる。しかし、義足がいくら優れていても記録は伸びない。あくまでも走る競技者本人の身体能力が伴ってはじめて記録につながる。

「板バネの反発力を高くしたからといって速くなるわけではなく、競技者の筋力や身体バランスに合った設計が必要です。しかも競技者の筋肉やポテンシャルは刻々と変化していくので、義足も身体の一部として、常に変化していかないといけません」と話すのは、ソニーコンピュータサイエンス研究所のアソシエイトリサーチャーである遠藤謙氏。2012年まで米マサチューセッツ工科大学(MIT)でロボット義足を研究していた遠藤氏は、2012年4月に帰国して以来、競技用義足の研究開発に取り組んでいる。

競技用義足の研究を始めるにあたり、まず「歩く」と「走る」の違いを理解することから始めた。どちらも同じように足を動かしているように見えるが、筋肉の使い方や地面を蹴るポイントは異なる。歩くときは「足底面が地面に接地したとき」と「後ろに蹴るとき」の2回地面に対する力(床反力)にピークが生じるが、走るときはこの2つの動作を一度に行うため、床反力のピークも1回になる。「歩くと走るでは、まったく別の運動と言えるほど違う」と遠藤氏は話す。

MIT時代から研究しているロボット義足は、歩く、立つ、座る、階段を上るといった動きを想定して作られており、日常生活を快適に過ごすことが目的だ。膝や足首部分に搭載されたモーターが足の動きをサポートする仕組みで、ソフトウェアを調整することで個別対応が可能になる。対して競技用義足は、競技者の身体能力を見ながら、一人ひとりに合わせたカスタムメイドにならざるを得ない。同時に、競技者は義足のバネに合った体幹や走り方を身につける必要がある。

もともと陸上競技に詳しいわけではなかった遠藤氏だが、元陸上選手の為末大氏と知り合い、現研究所で基礎研究を行う傍ら、2014年5月に義足の開発と活用を推進するサイボーグという会社を設立。同社は国内トップの障がい者陸上競技選手3名とも契約した。定期的に開催する練習会では、遠藤氏、為末氏、義肢装具士、選手たちが議論しながら義足の開発を進めている。サイボーグ設立から1年余りが経ったが、記録が徐々に上がり始める選手もでてきた。

「まずは2016年のリオのパラリンピックで、自分たちで作った義足をつけたパラリンピアンが出場すること。そして、2020年の東京パラリンピックの100m走で、オリンピックの記録を上回るタイムで優勝することが目標です」という遠藤氏。

目指すは記録だけでない。自分たちの義足開発の様子をオープンにすることで、障害者の現状やパラリンピアンの頑張りを広めようとしている。「下肢を切断して初めは歩くこともできなかった人が、義足を装着してこれほど速く走れるようになる。この人たちがスポーツを通じて社会で活躍することのお手伝いを出来ればと思います」と語る。




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