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Highlighting JAPAN

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なぜここに外国人

きらめきを求めて(仮訳)

日本に来る前、アレキサンダー・ベネット氏が剣道について知っていたことは、シリアルの箱に書かれていたものを読んで得た知識だけだった。その彼が、いまや世界的に認められた名手として、剣道を中心とした生活を送っている。

「私のあらゆる行為は、良かれ悪しかれ、何かしらの形で自分の剣道に通じています」とアレキサンダー・ベネット氏は語る。「自分の理想に従って生きるということは、日常生活を送るうえで大きなプレッシャーになります。しかし、自分の理想に従って生きることができなければ、理想とする剣道を実践することはできません。なぜなら、その人にとっての剣道とは、その人の生き方そのものだからです」。

関西大学で教授を勤めるベネット氏がまだ高校生だった1987年、ニュージーランドからの交換留学生として初めて日本に来たとき、ベネット氏は剣道――日本の剣術――をやってみようとは思っていなかった。実際、剣道がどんなものかも知らなかった。その武道に関わりをもつ唯一の経験は、シリアルの箱に書かれていた剣道に関する情報を数年前に読んだということだけだった。

ベネット氏はサッカーをしたいと思っていたが、ホームステイ先の母親はもっと日本的なものをやるように薦めた。彼は、初めて道場に入り、ダースベーダーにも似た剣道着に身を包んだ人々が、竹刀 (竹製の刀) で打ち合っているのを見たときのことを思い返す。「彼らが何をやっているのか分かりませんでした」と当時を振り返る。「それに、とても痛そうに見えました。凶暴なものに思えて、実際のところ最初は恐いとも思いました。しかし、顧問の佐野先生の考え方は、自分がここに辿り着いたことには理由がある、というものでした。イーグルス(米国のミュージシャン)の『ホテル・カリフォルニア』で歌われているように、二度と離れられなくなるのです」。

第一印象は恐ろしいものだったにもかかわらず、ベネット氏はすぐに剣道にのめり込み、必要とされる身体的な技術だけでなく、精神的・哲学的基盤も学んだ。留学期間を終え、ニュージーランドのクライストチャーチ市に帰郷した後、市内で最初の剣道同好会を立ち上げた。そしてまもなくワーキングホリデービザで日本に戻り、その後千葉県の国際武道大学で武道を学び、全日本なぎなた連盟の支援を受けてなぎなたに関わる仕事をしつつ、その競技の腕を磨いた。日本語や日本の文化・歴史の学位もその後取得した。25年間が過ぎるのは、あっという間だった。「これが現実に起きたことだと思えないときがあります」と彼は語る。「いつまでも続いている夢のように感じるのです」。

現在、アレキサンダー・ベネット氏は、世界有数の剣道の権威となっている。剣道7段を取得し、全日本剣道連盟の国際委員会委員であるとともに、日本武道学会の役員や、ニュージーランド・ナショナルチームの総監督も務めている。また、英語の専門誌『剣道ワールド』で編集長を務めるとともに、日本の武道に関する2つの博士号も取得している。2015年7月に出版した書籍『Kendo: Culture of the Sword』は、剣道の歴史だけでなく、その精神や文化の発展についても取り上げている。

ベネット氏の次の課題は8段を取得することだ。これは現在の剣道における最高の段級位である。剣道の場合、7段を取得した後、試験を受けられるようになるだけでも10年間待つ必要がある。最少年齢は46歳で、合格率は1%を下回る。

ベネット氏によると、その人の剣道は年齢により進化するという。「よりミニマリストになり、ある意味でよりスピリチュアルになるのです」と彼は説明する。「当然ながら身体面も重要ですが、そのような側面の劣化はより強い力で補うことができ、その力こそが精神力なのです。そのため、生徒たちと訓練しているとき、基本的に私は彼らを“気”(精神もしくは生命力) で圧倒しようと努めています」。

「それこそが、私が到達したいと思っている境地です」とベネット氏は続ける。「動作の美しさを保ちつつ、精神面においても強くありたいのです」。しかし、8段に達することが彼の最終目標ではない。「それは道のりの中におけるひとつの節目にすぎません。結果というよりも、プロセスです。大事なのは、自分の道である剣道――そしてその美しさや強さを形成する方法を追求することなのです」。

ベネット氏は、剣道を訓練している人々が世界中に200万人程度おり、そのうち150万人が日本にいると見込んでいる。しかし、剣道は国をまたいで急速に成長を遂げていると彼は語る。剣道は、最初は戸惑うかもしれず、様々な苦難を経験する必要があるかもしれないが、「オール・オア・ナッシングになる瞬間が訪れる」と彼は話す。「人生の全般にわたって物事を中途半端に行ってしまうような人も、一度剣道の環境に身を置けば、中途半端なことをしているときに楽しいと感じられず、そこにいないほうがましだと思うようになります。実際に一歩踏み出してその環境に身を投じ、一心に懸命に打ち込めば、心の中で何かがきらめく瞬間が訪れます」。

ベネット氏は、自身の結論をこう語る。「アナログ人間になれば良いだけのことです。そして、自分の感情や身体性、心と体の不思議な結びつきに目を向けるのです。そのようなわけで、私のアドバイスは、そのきらめきを経験する日までやり続けるということです」。

 



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