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Highlighting JAPAN

軌道をよみがえらせる

大きな被害を受けながらも迅速な復旧によって、被災者を支えた三陸鉄道。震災の理解を深め、被災から復興までの道のりを語り継ぐとともに、今後利用客を増やすための様々な取り組みも積極的に行っている。

2011年3月11日に起きた東日本大震災の津波は、岩手県内の三陸海岸沿いを走る三陸鉄道にも甚大な被害をもたらした。しかし同鉄道は驚くべき迅速さで運行を再開し、被災者を勇気づける存在となった。被災から5年を迎える現在、自然災害の恐ろしさと対策を人々に伝えながら、未来を見据えて走る三陸鉄道の姿を、三陸鉄道株式会社代表取締役社長の望月正彦氏にお話しいただいた。

北リアス線・南リアス線からなる全線107.6kmのうち、震災に伴う被害は317カ所に上り、レール、トンネル、駅舎、橋脚などが損壊・流出した。震災直後は全線運休を余儀なくされたが、すぐさま点検と復旧工事にとりかかり、震災5日後には、区間は途切れているものの可能な範囲で運行を再開し、同月末までに計36.2km区間の運行が再開された。被害甚大であったほかの区間については、2011年11月21日に日本政府から108億円の補助を受けられることが決まり、その後の3年間で復旧工事が完了し、2014年4月6日に全線完全復旧の運びとなった。

「迅速に復旧を進めることができた最大の要因は、被災翌月には復旧計画を作り、復旧にかかわるすべてのセクターが一丸となって協力したことです。三陸鉄道は交通手段のない地域の高校生の通学の足として地域で重宝されてきた存在です。毎年4月の高校入学式に間に合うようにと、皆が早いピッチで復旧を進めてくれました」と望月氏はいう。開業時の鉄道建設を請け負ったゼネコンが、保管していた設計図をもとに最新の技術を導入するなど、早く、安く、立派なものを地元の若者のために作ろうという関係者の思いは数字にも反映され、復旧にかかった費用は予算108億円を下回る91億円だった。

三陸鉄道復旧には、海外からの支援も役立った。クウェートは震災復興のためにと約400億円(原油500万バレル)を日本に寄付し、そのうち90億円が岩手県に配分された。三陸鉄道最大株主である岩手県の配慮により、その支援金の一部は車両8両の購入や駅舎修繕費用などに使われた。

「クウェートからの支援金で購入した車両の車体には、日本語、アラビア語、英語で『クウェートの支援に感謝します』とメッセージを入れました。車両前面にはクウェート国章も付けました。世界中からの支援があって復興が実現したことのシンボルになっていると思います」。

日本のテレビドラマによって広く知られることとなった「お座敷列車」は既存の車両を改造して座敷にしたユニークなものだが、今年3月引退予定の旧車両を引き継いで走る新車両は、クウェートからの支援金をもとに購入した車両だ。

三陸鉄道ではまた、震災の教訓を伝えていくために「震災学習列車」という取り組みも行っている。修学旅行生などが利用する貸し切り列車の中で、職員がガイドとなり被災時の状況や震災に対する理解を深めるための講義を行うもので、英語での対応も可能だ。

「震災前に比べて外国人観光客が増えているので沿線駅の表示の英語対応などは今後どんどん進めていく予定です。三陸鉄道には『鉄道むすめ』『鉄道ダンシ』というキャラクターもいて、彼らを使ったグッズや特別列車の売れ行きも好調です。通学の足だった三陸鉄道ですが、震災によって高校生の利用客が半分に減りました。定住人口増加が望めない時代ならば、交流人口を増やそう、そういう思いで、外国人観光客への対応や、キャラクター展開を行っています」と望月氏は意気込みを語る。新たな取り組みに積極的に着手し、走り続ける三陸鉄道。その力強い存在そのものが復興のシンボルといえるのではないだろうか。