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Highlighting JAPAN

熱帯雨林を宇宙から監視

二酸化炭素排出を抑制するために、日本は宇宙技術を活用して、アマゾンなど熱帯雨林の保全を支援している。

二酸化炭素(CO2)排出増加の一つの原因には、CO2を吸収・貯蔵する機能を持つ森林が世界的に減少していることがある。これを抑制するために、日本は海外で様々なプロジェクトを実施している。その一つが、衛星画像を利用したアマゾンの森林保全だ。アマゾンはブラジルやペルーなど8カ国にまたがる世界最大の熱帯雨林地帯である。しかし、道路建設、木材採取、牧草地や大豆栽培のための開墾によりアマゾンの熱帯雨林は、1960年代頃から急速に減少した。こうした状況を改善するために、ブラジル政府は2004年から光学センサーを使った衛星画像による違法伐採の監視を始め、違法伐採の取り締まり強化などの対策を進めた。しかし、衛星を使った監視には欠点もあった。光学センサーは地上から反射や放射される光を捉えて画像化するため、10月から3月までアマゾンが雲で覆われる雨期には、宇宙から地上の様子をできず、雨期には違法伐採が増える傾向にあった。

その欠点を克服したのが、2006年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)である。ALOSに搭載されたLバンド合成開口レーダー(PALSAR)は、雲も透過するマイクロ波を利用しているため、雲の上からでも地上を監視することが可能であった。

また、前に使われていた衛星では、アマゾンの熱帯雨林伐採の状況を把握できる監視データは年に数回程度しか入手出来なかったが、ALOSにより、季節に関わらず、アマゾンの全地域の新しい監視データを46日ごとに分析することが可能となった。

こうしたALOSの特徴を活かしJICAは、ブラジル環境・再生可能天然資源院(IBAMA)と連邦警察と協力し、2009年から2012年まで「アマゾン森林保全・違法伐採防止のためのALOS衛星画像の利用プロジェクト」を実施した。IBAMAは国立宇宙研究所(INPE)とともに、衛星からのデータを分析、連邦警察と共同して違法伐採の監視・摘発を行う組織である。JICAはリモート・センシング技術の専門家をIBAMAに派遣し、画像の分析方法など様々な技術を提供した。こうしたプロジェクトの活動は、アマゾンの森林保全に大きく貢献した。プロジェクトの期間中、約2000件の違法伐採が検知され、森林の減少面積は、2014年には年間50万haと、2004年の年間270万ha と比較して、80%以上減少した。

2014年からはALOSの後継機として、観測能力をさらに高めた「だいち2号」(ALOS-2)の運用が開始されている。2015年からはペルーで、ALOS-2による画像を利用したアマゾンの森林保全のプロジェクトも開始されている。

「ALOS-2のレーダーは、他の衛星のレーダーと比べると、森林を検出するセンサーの能力が、非常に優れています」とJICA地球環境部次長の宍戸健一氏は言う。「ALOS-2に対する各国の期待は非常に高いです」

2015年12月、フランスのパリで開催された気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)の「ジャパン・パビリオン」で、JICAはJAXAと共同で「森林ガバナンス改善イニシアティブ」を発表した。これは、ALOS-2を用いて、世界の熱帯林の伐採・減少の状況を常時モニタリングする「熱帯林監視システム」を開発することにより、世界の熱帯林保全に貢献するイニシアティブだ。モニタリングの検出結果は、平均約1.5ヶ月毎にJAXAのウェブサイトで公開する。例えば一般の人も自分のスマートフォンで画像を見ることも可能だ。2016年11月から試験運用を開始する予定である。さらに、このシステムを普及させるために、2020年までに途上国の人材を約500名育成することも発表している。

「衛星画像を一般公開すれば、森林の伐採状況を誰もが見ることができるようになるので、透明性が高まり違法伐採の抑止が期待できます」と宍戸氏は言う。「JICAとしては、今回のイニシアティブを通じて、各国の森林ガバナンスを改善し、森林保全に貢献したいと考えています」