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Highlighting JAPAN

  • 人間模様を人形芝居に託す

    淡路人形浄瑠璃は見事に再興を果たし、海外のクリエイターにも影響を与えている。

    淡路人形浄瑠璃は、500年以上の歴史を持つ、国指定重要無形民俗文化財である。その名の通り、兵庫県の淡路島に起源をもつ人形浄瑠璃は、その様式が全国中に広がり日本の伝統演芸の一つとなった。たびたび海外公演の招請により、淡路人形座は日本の海を越え遥か海外のクリエイターにも影響を及ぼしてきた。

    人形浄瑠璃は一般的に、三本の弦を撥で弾いて重厚な音色を奏でる”三味線”、様々な人物の喜怒哀楽や状況を語る太夫の”浄瑠璃”に合わせて、人形がまるで生きているかのように人間模様を描き出す。

    18世紀には、絶大な人気を誇り、大小さまざまな人形浄瑠璃の座が結成され、庶民にも広く親しまれていた。

    伝統的な人形芝居のルーツとされるのが、先述の淡路島の「淡路人形浄瑠璃」である。淡路島にはかつて40以上の座があり、彼らが日本各地を巡業し、人形浄瑠璃を広めていった。現在、人形浄瑠璃の一派としてもっとも有名な“文楽”も、淡路発祥である。

    しかし、近代になると多様な娯楽や文化に押されて、かつて人気を誇った人形浄瑠璃でさえ衰退していった。20世紀前半には淡路人形浄瑠璃も途絶えかけたが、伝統を守ろうとする人々の力で、1964年に「淡路人形座」が結成され、淡路の1市10町(現在は三市)が協力して「淡路人形協会」が発足した。こうして誕生した淡路人形座は、これまでにロシア、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、オセアニア諸国など延べ35ヵ国から招待され、世界的にも評価を高めている。

    淡路人形座とは?

    淡路人形浄瑠璃館支配人の坂東千秋さんはその背景について次のように説明する。

    「淡路人形浄瑠璃の特色は、神事色が強いことです。昔から淡路の人々の暮らしは農業・漁業が中心で自然の影響が大きく、神様を慰めるために人形が使われました。例えば、漁場の祭りでは必ず演じられた『戎舞』(えびすまい)が伝承されているのです」。

     そして「この神事で使われた人形が、三味線と語りによる浄瑠璃と合体して淡路人形浄瑠璃が生まれたとされます。現在も淡路島では、正月、神社に『式三番叟』を奉納する風習が受け継がれています」と、坂東さんは語る。

     さらに坂東さんは説明を続ける。「淡路人形浄瑠璃のもうひとつの特色が、人形の大きさです。大きいものは170㎝ほどもあります。これを3人の人形遣いが息を合わせて操ると、舞台で等身大の人形が動き始めます。一体一体の人形たちの表情の細やかさにも驚かされます。目を動かして左右を睨んだり、眉毛をつりあげて怒ったり、口を開いて笑ったりといった具合に、きわめて繊細に、ときにダイナミックに心の動きを表現するのです。頭部は檜や桐でできていて、くり抜いた内部に、眉や目、口を動かすしかけ糸などのからくりが仕込まれ、糸を引き仕掛けを動かす部分は『コザル』と呼ばれるのです」。

    「もともとは小さい人形をひとりで操っていたそうですが、より迫力のある芝居を求めて、人形が大きく変化したと言われます」と坂東さんは語り、例えば「神事色をとどめながら、観客を驚かせ、楽しませる派手な演出も特徴的といえます。人形や人形遣いの衣装が瞬時に変化する「早替わり」、舞台の背景が次々と変わり、最後は千畳敷の大広間のように見える空間が出現する「大道具返し」などがあるのです」と説明する。

    「淡路人形浄瑠璃は、海外のクリエイターにも影響を与えてきました。例えば、ブロードウェイを代表するミュージカル『ライオンキング』の演出家、ジュリー・ティモア氏は、1974年大学卒業後、淡路人形座を訪れて約1カ月研修を受けました。ライオンキングで2体のライオンが身を乗り出して対決する場面では、相手に詰め寄って怒りを表現する人形浄瑠璃の動きが取り入れられているのです」と、坂東さんは言う。

    「現在、淡路島の子どもたちは、地区の子供会や中学校、高校のクラブ活動などで淡路人形浄瑠璃の修業をしています。私たち座員は、そうした指導にも関わっています。500年続く伝統を我々が守り、そして次の世代へ確実に引き継がなければと思っています」と、坂東さんは語ってくれた。

    淡路人形座の座員は約20人。2012年に完成した劇場では、休館日の水曜以外1日4回、毎日上演されている。年間来場者は5万人。一度は廃絶の危機に立たされた伝統芸能が、再び脚光を浴びている。