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Highlighting JAPAN

カンボジアに新道路

日本の中小企業の道路舗装技術と知識が、環境への影響を最小限に抑えつつカンボジアのより安全な道路の発展に寄与している。

株式会社愛亀は、愛媛県松山市に本社を置き、道路の舗装を主な事業としている。建設資材の製造、販売から建物の施工なども手掛ける関連グループ会社9社を合わせると従業員数はおよそ300名で、自らの役割を「インフラの町医者」と自認し、グループ全体で地域に密着した建設関連事業全般に携わっている。その愛亀企業グループが、2016年に、新たにカンボジアに現地法人を立ち上げた。

カンボジアには1980年代に続いた内戦時に仕掛けられた地雷が今も残る地域がある。地雷除去の活動をする日本人の一人が愛媛県出身で、愛亀の社長と知り合いだった縁から、愛亀は数年前からカンボジアの若者たちを研修生として受け入れるようになった。

愛亀の海外事業室の岡本將昭さんは「今、カンボジアでは、舗装道路の補修が大きな課題になっていると研修生たちから聞きました。それなら私たちの会社には最適な技術があるのでカンボジアに導入しようということになり、独立行政法人国際協力機構(JICA)の中小企業海外展開支援事業に応募しました」と経緯を話す。

JICAの採択を受け、2014年に現地での案件化調査が始まった。カンボジアでは急激な経済発展にともない交通量が増え過積載の運搬車両も多く、舗装道路の傷みが深刻化していた。道路に開いた穴を避けようとした蛇行や、急ブレーキを踏むなどの危険運転で、事故が多発していた。カンボジアでは、こうした穴の補修にはその大小にかかわらず、機械が入る大きさまで路面の穴を切り広げ再舗装していた。これは長時間に渡る作業を要するもので、その間交通を止めておくことは難しい。また、穴に雨水が溜まると従来の補修作業は行えない。熱帯モンスーン気候のカンボジアでは、こうした穴が雨期に放置されることによって穴がさらに大きくなるという問題もあった。

愛亀は、同社が開発した全天候型舗装補修材「常温合材エクセル」を、カンボジア公共事業運輸省(MPWT)の下で試験施工した。「エクセル」は特殊な添加剤を混ぜたアスファルトを使用し、最大の特徴は、圧力を加えることによって硬化する点である。直径1m程度までの穴であれば、直接「エクセル」をならして穴を塞ぎ踏み固めれば工程は完了する。後は車両がその上を通過すると、圧力で補修個所の強度が増していくため、特別な機械を使わなくても耐久性の高い補修が可能である。また、従来型の添加した油分の揮発で硬化するアスファルトと違って、雨降りや水たまりがあっても使用できる上に、施工完了時にガスバーナーなどで加熱する必要もない。「エクセル」を試験施工した道路では定期的に追跡調査が行われているが、雨期でも状態は非常に良好である。

2016年2月にはJICAの普及・実証事業に採択され、愛亀は今後の事業展開の拠点としてカンボジアで現地法人を立ち上げた。現在は、MPWTの管轄する25州の幹線道路で「エクセル」の試験施工が進められている。同社の補修材生産設備はJICA を通じてMPWTに譲渡し、MPWTによる運用も事業終了後に始まる。今後の道路補修の需要の増加を見越して、愛亀は現地自社工場を設けて供給する計画であり、実現すれば目下の課題となっている補修材価格も下げることができる。

普及・実証事業は2018年3月に終了予定だが、MPWTはその後の技術提携を愛亀に依頼している。

「カンボジアの田舎ではまだ土の道が多く、夜間にバイクの転倒事故も発生すると聞きました。そこには私たちの開発した路盤処理工法が簡易舗装として応用できます」と岡本さんは語る。

路盤処理は、本来、舗装の下地を安定させるための工程だが、愛亀の工法は、特殊なアスファルト乳剤とセメントを使用し、それだけでも十分な強度と耐久性が得られる。大きな利点は、独自の重機でその場の土や砂利をかき込みながら材料として再利用するため、新しく砕石を必要としないことである。

「首都プノンペンを始めカンボジアでは、舗装道路を造るために、過去には近隣の山が切り崩されてきました。私たちの工法なら、山を保全することができます」と岡本さんは語る。

安全な道の確保は、安全な一般交通から流通の改善はもとより、経済の更なる発展にも寄与する。カンボジアに安全な道を広げるため、環境への負荷も少ない愛亀の技術への期待が高まっている。