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Highlighting JAPAN

お雑煮: 気取らないご馳走

日本のお正月になくてはならないもの

お雑煮-それは、究極の飾り気のない料理である。

香りのよいだし汁で煮込んだ鶏肉や蒸した長ネギ、人参、里芋(タロイモ)などの野菜を、煮汁とともに焼いた餅の入った漆塗りのお椀によそい、トッピングに小松菜と柚子の皮を飾る。

ただ、それだけである。

吉江重昭さんがオーナー・シェフを務める東京にある「おにぎりカフェ 利さく」では現在、ごぼうとかぶの漬物を添えてお雑煮が提供されている。お雑煮は、日本の気取らない美味な料理の一つである。また、歴史が古く、日本を最も象徴する料理の一つでもある。

お雑煮は健康に良い食事として知られるが、多くの日本人にとって、お雑煮は年に一度の正月に提供される料理になっている。

お雑煮はいつも、おせち料理とともに食べられる。おせち料理とは、日持ちのする食材を使って数日に渡り手間暇かけて準備された色彩豊かな料理で、重箱に詰めて出される。

おせち料理が保存の効く食材を中心としているのは、もともと正月の期間、長持ちするようにという意図からで、また普段引っ切りなしに料理や洗い物で忙しくしている者を正月の間だけは家事から解放してあげたいという意味合いも込められていると言われている。

「日本人にとって、『お雑煮』や『おせち』という言葉は、新年と密接に関係しています」と、新潟県魚沼産の最高級こがね米で作られた餅をじか火で焼きながら、吉江さんは話す。餅は、まるでひとりでに膨らんで弾けるチューインガムのように膨らんだ後音をたてて破裂する。

「お雑煮は、それぞれの地域・地方によって違いがありますが、お雑煮に込められた意味やその本質は、どこも同じです」

お雑煮の起源は定かでない。一部の諸説によれば、京都に都があった平安時代(794~1185年)に貴族階級の間で食されていた有職料理に起源があるとされている。

その一方で、長年にわたり新年を含む一年の祝祭日に仏様へのお供え物を使って調理されたものがお雑煮のルーツ、という説もある。

吉江さんによると、そうした食物は伝統的に、それぞれの土地で収穫することができた作物だったという。

今でも地方によって異なるお雑煮が存在するのは、そうした背景に由来すると考えられている。最も顕著な違いは、東京を中心とした関東地方と、大阪や古都京都に代表される関西地方のお雑煮に入れる餅の形とその汁の味付けに見ることができる。

関東地方のお雑煮の場合、汁の味付けは醤油ベースのすまし汁仕立て、餅は角餅だが、関西地方は白味噌仕立ての丸餅が主流である。

吉江さんの説明によると、お雑煮に入れる餅の形が異なることについて考えられる理由は、伝統的に餅は、手で丸められ、蜜柑などの他の円形のお供え物と一緒に祭壇に供えられていたことにある。 平らで四角い切り餅は、大量生産用にも簡単に切り分けられ、そうした理由から角餅は人口の多い関東地域に広がり定着している。

一方、餅以外にお雑煮に入っているその他の具材は、古から伝わる季節を祝う習慣や直接的な生活環境とより密接に関係している。

「それぞれの地方のお雑煮には、その地独特の特徴が見られます。それは、地元で作られた作物を活かす日本人の長年の資質を表しています。例えば、鶏肉がすぐに手に入らない海沿いの地域では、鯛などの魚が具材に使われています」と吉江さんは言う。

得意客の要望に応えて利さくの年末のメニューに登場したお雑煮は、東京で見つけることができる地方の食文化を融合した一品である。

だし汁は、かつお昆布だしに日本酒、醤油、塩そしてみりんを加えて作られる。また、餅と同様、鶏肉も厳選されている。吉江さんが使用するのは、「大山地鶏」として知られている、放し飼いで飼育された鶏のジューシーな肉で、鳥取県の供給業者から直接仕入れたものである。

また、お雑煮の具材として一般に好んで使われる「赤かまぼこ」が入っている。赤かまぼこは、通常、半円筒形をしており、そのアーチ部分は「赤い」層(実際にはピンク色)をしている。ピンクや赤は、日本では、とりわけ新年のようなおめでたい場にふさわしい、縁起の良い色とされている。

吉江さんによれば、おせち料理の一部は、西洋のクリスマスディナーと同じように、食べ重ねるうちに味に慣れてきて好きになる料理で構成されている。

「しかし、お雑煮は、誰の口にも合う料理として知られています。見た目はシンプルですが、新年にふさわしい贅沢な一品です」と吉江さんは語る。