Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan February 2018 > 地方創生

Highlighting JAPAN

京都にある漁村の魅力

人口減少に直面する小さな漁村が、ユニークな景観を観光資源とし、住民一体が再生の取組を楽しんでいる。

京都府・丹後半島北部の伊根町は、日本海に面した良港に恵まれた漁業の町で、自然と調和した舟屋の景観が有名である。舟屋とは、海辺間近に建てられた1階が船のガレージ、2階が居間となった独特な建物である。舟屋の前に細い道路があり、道路を挟んだ山側には住居(母屋)が建ち、住人は舟屋と母屋を行き来して暮らしている。湾に沿って連続して建てられた舟屋群は現在約230軒あり、中には江戸時代に遡る小屋もある。独特の歴史的景観により、漁村では初めて国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている。これにより、家を改修する場合には、町の許可を受け日本産の瓦や木材を使用するという厳しい規則に従わなければならない。伊根町も店の看板を抑制するなど、町を挙げて海と調和した舟屋の景観維持に取組んでいる。

美しい景観を誇る一方、伊根町の人口は約2000人で、長く過疎の問題に直面している。人口減少に歯止めをかけようと町長の吉本秀樹さんは12年前の就任時より伊根町の魅力を世界に発信し、町の観光化を進めている。「天候に左右され、働き手が必要な漁業や農業では限界があります。この町が生き残るために、ただ収穫するだけではなく市場ニーズやマーケティングまで考えるような町民の意識改革が必要でした。その起爆剤として、私は街の観光産業を活性化させたかったのです」と吉本さんは語る。定住人口の増加のためには、まず外部の人々に伊根を知ってもらう必要があり、鍵は観光にあると考えたのである。

吉本さんは、まず舟屋を核とした観光ブランディングに着手した。「日本で最も美しい村連合」「世界で最も美しい湾クラブ」に加盟し、吉本さんは積極的に町の美しい景観の魅力を伝えた。さらに、新たな視点で地場産品や舟屋の生活スタイルをインターネットで発信してくれる地域外からの移住者を募った。

「新聞で伊根の総務省の施策地域おこし協力隊の募集の記事を見つけ、2年前に伊根に移住しました。町にはコンビニやスーパー等もありませんが、インターネットのサービスや気にかけてくれる町民の方がいらっしゃるので特に不便を感じません。移住者も増えつつあり、関東や台湾といった様々な土地から集まった移住者同士の交流会も盛んに開催され、いつも人の結びつきを感じています」と話す大久保祐里さんは九州出身で、2016年8月より伊根町に移住し役場の情報発信担当を勤めている。役場では、外部からの移住者のための生活支援制度を整え、将来的には国外から移住者や観光客が集まるグローバルな展開も見据えており、町の観光協会には、英語・中国(台湾・広東)語・スペイン語を話せる職員がいる。

町の地道な努力と近年のSNSの隆盛により、伊根町は国内外から観光客が増加し、台湾や香港を中心に外国人観光客が、ここ3年間で毎年倍増している。町民は思い付きもしなかったことであるが、海外留学生の助言により湾に浮かぶ小舟を海上タクシーにすると瞬く間に旅行客の間で有名になった。増加する観光客に対しておもてなしの精神が町民に自然と芽生え、住民の案で伊根での生活や歴史を紹介しながら町を散策するツアーが誕生した。

2019年春までに、伊根町は空き屋となった舟屋を改装し一棟貸の宿を完成させる予定である。これを機にさらに舟屋を利用した宿の建築を進め、観光客に伊根の海を間近に感じてもらうための空間作りをしている。

「地元に10年ぶりに戻り、町の観光化に驚きました。大阪でのパティシエの経歴を活かし、町で唯一のカフェでケーキを作り、観光客の方に景色を眺めながらティータイムのできる空間を提供しています」と伊根町観光交流施設「舟屋日和」の指定管理者、株式会社サバイが運営するINE CAFÉの店長の永濱志穂さんは語る。

伊根町は、漁村のありのままの姿を観光資源とし、伝統的な舟屋の建物群とその入り江が織りなす美しい景観が世界に知られるようになった。そこには、リーダーの情熱、留学生のアイディア、伊根町に移住した人の発想があった。新しい人々を迎え入れることで伊根の魅力は大きく引き出された。この町の人々は小さな入り江から、広い海を遠望している。