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Highlighting JAPAN

シンプルな免震装置

新しい部分免震技術によって、最も免震の必要なビルの床を、低コストで効果の高い免震構造にすることが可能となっている。

清水建設株式会社は、大規模な地震から建物を守る免震構造技術の研究に力を入れている。免震構造には、建物全体を免震化する方法と、必要な部分だけを免震化する部分免震がある。建屋全体を免震できない場合、低コスト・短工期が求められるなどの理由から「部分免震」への要求が高まっている。

清水建設は東日本大震災後の各種の調査で多くの医療従事者から、「建物の耐震性能は十分でも大きな揺れで手術継続に何らかの障害があった」「地震時に手術室が免震化されていれば、手術台が揺れず患者の安全を容易に確保、医療機器の転倒を防ぎ、揺れが収束した後の迅速な医療再開につなげられた」という声を聞いた。

こうした声を受け、同社は、床に薄い鋼板を二枚重ねただけのシンプルな構造を持つ、手術室向けの部分床免震システム「シミズ安震フロア」を開発した。これは、エンボス加工された鋼板(フロアプレート)の上をもう一枚の平らな免震プレート(鋼板)が滑ることで、上部の免震プレートの構造に高い免震効果を発揮させる仕組みである。

「安震フロアには二つの特徴があります。一つは、装置が薄型であるために新築にも改修にも適用できる点です。もう一つは、地震が収まった時に手術室床(免震プレート)が元の位置に戻るように、ばねを使用した点です」と技術研究所 安全安心技術センターの福喜多輝センター所長は話す。

清水建設は、床の材料となる滑りの良い鋼板を見つけるために、板を薄くしても強度や耐久性が維持できるか、様々な試験を重ねた。その結果、新日鉄住金株式会社製の冷蔵庫など白物家電に使用されている薄板鋼板が目標の免震性能を満たすことがわかった。安震フロアは、フロアプレートと免震プレートに1.6ミリメートルの薄板鋼板を使用しているため、仕上げの長尺シートを合わせても装置全体が約5ミリメートル程度という薄さである。

次に、揺れによりスライドした床を元の位置に戻すため、清水建設は免震プレートと建物床を繋ぐばねの選定に着手した。「我々は定荷重ばねという特殊なばねを選びました。通常のばねは、引っ張る量に比例した復元力を発生しますが、定荷重ばねは引っ張る量に関係なく一定の復元力を発生するという特徴があります。震度5程度以上になると免震プレートが動き出し、揺れが収まると元の位置に戻したいわけですが,このばねの強度をどの程度にするかが開発の鍵となりました」と福喜多さんは話す。

一般的な手術室は二重壁の構造で、内側に手術を行う部屋があり、その外側に電源装置や空調設備を収納する70から80センチメートル幅の空間がある。そこにばねを収納し、内側の壁を建物躯体から吊ることで、建物床と壁の間に空間を作り手術室床がスライドできるようにした。結果、通常の手術室と見た目も変わらず、大規模な地震発生時には手術室床が滑ることで、手術室を免震構造とした。

「この技術開発まで4年かかりました。竣工後は、メンテナンスはほぼ必要ありません。直下型地震や海溝型地震など過去に発生した10種類以上の地震波で実験を重ね、いかなる地震波でも免震効果を確認しています」と福喜多さんは話す。

安震フロアは、新築はもちろんのこと、改修時でも必要な部分のみ免震化し、大切な装置や備品を地震から守ることができるのが長所である。現在、手術室のみならず企業のサーバ室にも導入が決定しており、用途が広がっている。